人工知能(AI)を社会で健全に利用されるための論点を整理した報告書をこのほど、内閣府の「人工知能と人間社会に関する懇談会」がまとめた。倫理的、法的、経済的、社会的、教育的、研究開発的の6つの論点を整理し、AIの普及に伴う雇用環境の変化や自己責任の所在、個人情報保護問題などさまざまな課題を幅広く網羅している。今後AIとそれを利用する人間、社会との関係を考える上で基礎となる内容になっている。

写真 昨年4月に総務省、文部科学省、経済産業省、科学技術振興機構、新エネルギー・産業技術総合開発機構が合同で主催した「第1回次世代の人工知能技術に関する合同シンポジウム」。今後の研究開発の在り方などについて議論された(今回報告書をまとめた「人工知能と人間社会に関する懇談会」とは直接関係ありません)

報告書はまず、「AIが社会にもたらす期待と不安」として、自動運転を例に「人間社会に多大な便益をもたらすと期待される」とする一方で「AIに操られてしまうのではないかとの疑念や不安が生じ得る」としてAIをめぐる現状を整理し、今後の検討課題を明らかにする必要性を強調した。

その上で報告書は人間活動に与える影響として「移動」「製造」「個人向けサービス」「対話・交流」の4分野でさまざまな事例を分析。その結果を6つの論点に整理している。

倫理的論点では「AIにより新たな倫理観が形成されることが予想される」として、AIによって知らない間に感情や信条、行動が操作されたり、順位付けや選別されることへの懸念があることを指摘した。法的論点では自動運転車による事故を例に、事故時の責任の所在や保険整備などをしっかり検討する重要性を挙げた。またAIを使うリスクと使わないリスクについても検討することを求めた。

経済的論点では、「ビジネス勢力図が抜本的に変化する可能性がある」とした上で、AI時代は人材と業務のマッチングがうまくいかないと失業と人手不足が同時に起きる可能性がある、と予測し、こうした問題に関連する「セーフティネット」についても検討するべきとした。

また社会的論点については、「AI使用は社会的に強制されるものではない」と明記。個人の信条に基づくAI技術との関わり方の自由を確保することの大切さを説きながら「利用する者と利用しない者との間で社会的対立が生じないような配慮が必要」としている。このほか教育的論点では、AI技術を適切に利用する教育と同時に「AIではなく人間にしかできない能力育成」の重要性を挙げた。

研究開発的論点では、研究者に高い倫理観のほか、ガイドラインの順守と研究開発に伴う説明責任や個人情報の保護などを求めた。さらに「未来社会を適切に設計、実現するために人文社会科学者が新しい科学技術に対する知見を身につけ、自然科学者も人文社会科学者と共同して研究を進める必要がある」と強調した。

AI技術は大量データを基に自ら学習する「ディープラーニング(深層学習)」と呼ばれる手法が登場してから一気に進歩。人間とのゲーム対決でAIが苦手とされていた囲碁の世界で昨年、AI囲碁ソフト「アルファ碁」が世界トップクラスのプロ棋士に勝ち越したことから、AI技術の急速な進歩を広く印象付けた。AIは今後「第4次産業革命」の中核を担うとされている。

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