国立医薬品食品衛生研究所(NIHS)などは1月23日、ヒトでの致死性不整脈リスクの異なる60薬剤を用いて、細胞外電位測定によるヒトiPS心筋の不整脈予測に関する大規模な検証試験を実施し、ヒトの致死性不整脈リスクを評価するための方法(スコアリング)を確立したと発表した。
同研究は、NIHS薬理部の関野祐子 薬理部長および日本安全性薬理研究会の澤田光平 会長が主導するJapan iPS Cardiac Safety Assessment(JiCSA)が日本医療研究開発機構(AMED)の研究支援を受けて実施したもの。詳細は「Journal of Pharmacological and Toxicological Methods」の3月号に掲載される予定だという。
医薬品開発において、心臓に対する毒性(心毒性)は重大な副作用の1つので、中でも心室筋の活動電位持続時間に相当するQT間隔を延長させる薬剤の中には、torsade de pointes(TdP)といわれる致死性の心室性不整脈を誘発するものがあり、これが原因で医薬品候補化合物から外される薬剤は多い。このTdPの誘発リスクを、医薬品開発の早い段階で高精度に予測することは、患者への安全性の担保および医薬品開発コストの抑制などの面から求められていた。
近年、ヒトiPS細胞由来心筋細胞を用いることで、動物実験以上に高い精度でTdPリスクを評価可能なツールになるのではないかという期待はあったが、これまでの評価は小規模なものにとどまっており、TdPリスク予測のための評価方法は確立されていなかった。
そこで研究グループは今回、ヒトでのTdPリスクが異なる60薬剤(媒体およびiPS心筋細胞の性質を確認する試薬2種を含む)を用いた大規模検証試験を実施。その結果、医薬品のTdPリスクを低リスク、中リスク、高リスクに分類する方法を開発することに成功したという。また、同方法で低リスクおよび高リスクに分類された薬剤のヒトでのTdPの発生状況を比較した結果、80%超の精度でヒトの薬剤誘発性のTdPのリスクを分類できることも示されたという。
今回の結果について研究グループでは、ヒトiPS細胞由来心筋細胞を用いた評価は、薬剤誘発性の致死性不整脈を予測できる研究ツールとなり得ると期待され、その利用が促進されることが期待されるとコメント。今後は、各企業や大学の研究室から作製された細胞についても、今回の評価法を用いてリスクの予測を行うことで、この評価方法が創薬研究に適用可能なヒトiPS細胞由来心筋細胞の基準として活用されることも期待できるようになるとしている。