情報通信研究機構(NICT)、オムロン、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)、日本電気(NEC)、日本電気通信システム(NEC 通信システム)、富士通、富士通関西中部ネットテック(富士通KCN)、サンリツオートメイション(サンリツ)および村田機械(村田機械)は1月17日、かねてより実施していた稼働中の工場での無線通信技術の検証によって得られた知見を発表した。

工場内ではさまざまな無線システムが混在することにより、無線通信が不安定化するという課題がある。NICTらは製造現場でIoT化を推進するため、2015年6月よりFlexible Factory Projectを立ち上げ、複数の稼働中の工場において無線環境評価と無線通信実験を行ってきた。

同プロジェクトでは、ユーザー企業である三菱重工工作機械の本社・栗東工場内やトヨタ自動車の堤工場および高岡工場内にて、共同実験各社が持ち込んだ音、振動、温度、湿度、電流波形などの情報を取得するセンサーを生産設備に取り付け、複数のセンサーから取得した情報を無線で送信する評価実験を実施。無線通信の現場の課題事例を利用空間と時間にわたって詳細に確認した結果、無線資源が有効に活用されていない以下のような実態が浮かび上がった。

  • 短期間で急速に無線設備の導入が進んでいるという現状。
  • 設備ごとに無線設備が導入されており、工場全体での無線設備を協調させた制御・管理が必要。
  • 大型モーターから発生するノイズが無線周波数帯に及んでいる。
  • 工場にある大型設備による遮蔽によって無線の通信品質が悪化する。
  • 複数の設備が同時に動くラインでは、通信の衝突を避けるメカニズムにより、送信待ち時間が長くなり、受け手がデータを受信できるまでに時間がかかる。

また、同プロジェクトの一環として、業種の異なる複数の工場からヒアリングを実施し、現在あるいは近い将来、工場、工場附帯施設、物流倉庫で用いられる無線用途を、「品質、制御、管理、表示、安全、その他」のカテゴリに分けて抽出し、無線用途別に通信要件を整理した。この通信要件は、今後、製造現場に設置される複合的な無線システムの動作シミュレーション、設計、不安定化のリスク評価、ガイドライン作成などに使用できる。

さらに、実際の製造現場で必要とされる具体的な利用シーンを想定し、設備ごとに独立した無線システムを協調させて制御することで安定化するためのソフトウェア構成を無線アーキテクチャとして提案。この無線アーキテクチャは、工場の生産設備の無線化に当たり、無線の非専門家がシステム設計を行うことを想定し、以下を特徴としている。

  1. 920MHz 帯、2.4GHz 帯、5GHz 帯、60GHz 帯の周波数が対象。
  2. これまでの実験で明らかになった工場ごとの無線環境の違いと、実際に使われる無線用途別の通信要件を踏まえた設計。
  3. アプリケーションソフトウェア側の情報のやり取り手法を統一することにより、物理層によらず制御が可能。

NICTおよび共同実験各社は、ユーザーと通信・機械・システムの専門家と共に、個々に所有するセンサー、IoT、無線通信、セキュリティー、クラウド、AIなどの技術と今回得た知見を活用し、無線通信に求められる機能要件の明確化を通して、製造現場におけるリアルな工場内無線通信の課題を解決するソリューションを提案していくとする。なお、無線用途別の通信要件は、「製造現場における無線ユースケースと通信要件」として、2017 年3 月に公開する予定だ。

NICTと共同実験各社が、複数の稼働中の工場で行った無線環境評価、無線通信実験の様子