既報のように、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は1月15日、SS-520ロケット4号機の打ち上げに失敗。同日開催した記者会見にて、JAXA宇宙科学研究所・宇宙飛翔工学研究系の羽生宏人准教授(実験主任)が状況について説明した。ただ、失敗の原因等、詳しいことはまだわかっておらず、今後、各種データから解析を進める。
現時点でわかっていることはあまり多くない。というのも、今回の打ち上げ失敗は飛行中のテレメトリが取得できなくなったことが問題の発端であるため、途絶後のデータがない。テレメトリさえあれば機体の状況もわかるだろうが、それがない以上、地上の追跡データなどから間接的な証拠を積み上げ、原因を究明していくしかない。
この記者会見で新たに明らかになったのは、打ち上げ後20秒まではテレメトリの取得が行えていたということだ。しかしその後、突然データが届かなくなり、復旧を試みたものの、状況は変わらず。その状況のまま、第2段以降のシーケンスを続行するかどうか判断する時間になってしまったため、飛行を中断した。
SS-520ロケット4号機はもともと、第1段の分離後、ラムライン制御で姿勢を変え、その段階で続行の可否を判断する計画だった。これは、予定通りの位置・姿勢で第2段を点火しないと、落下予想区域外に物体を落とす危険があるためだ。点火すれば衛星の軌道投入に成功した可能性もあるが、状況がわからない以上、点火するわけにはいかない。
打ち上げの20秒後というのは、まだ第1段の燃焼中である。第1段は30秒ほど燃焼する計画で、この20秒以降の機体の状態は不明だが、地上からのレーダー追跡の結果を見る限り、第1段の燃焼は正常に完了し、分離も行われた模様だ。この追跡により、ロケットは高度190km程度に到達し、弾道軌道を描いて、予想区域内に落ちたことがわかっている。
当然ながら、記者会見では失敗の原因について質問が集中したが、羽生准教授は慎重な言い回しで、原因の特定を避けた。確実なデータがまだなく、原因の特定には時間がかかるためだ。
SS-520ロケット4号機は、民生品の活用による低コスト化がミッションのひとつだったが、民生品を使っているのは今回追加した第3段が中心であり、第2段に搭載されているテレメトリ関連の機器については、飛行実績のある従来品を使っていたそうだ。現時点の情報では、民生品が原因とは言えず、特定するには今後の解析を待つ必要があるだろう。
従来、衛星やロケットには宇宙用の部品・装置が使われることが多く、これが高コストの一因となっていた。超小型衛星の世界ではすでに民生品の活用が進んでおり、多くの知見が蓄積されてきているが、ロケットでの活用はまだこれからといった状況。SS-520ロケット4号機による技術実証は、そのための一歩となるものだった。
羽生准教授は、「設計上の問題はないと思っており、地上試験でも問題ないことを確認したうえで、打ち上げに臨んでいる。その地上試験と実際の飛行実験との間の差分は何だったのか、そして搭載機器に対して飛行環境がどのような影響を及ぼしたのかを調べる必要がある」として、原因の究明に全力を尽くす考えを示した。
また衛星側の代表として記者会見に出席した東京大学の中須賀真一教授は、「我々はもう10年以上前から、民生品が宇宙でも使えることを実証してきた」と指摘。原因はまだ不明だが、「もし民生品が原因だったとしても、それで民生品が使えないとなると、今回の実験を行った意味がない。継続することが大事」とし、JAXAの取り組みを支持した。
ちなみに中須賀教授によれば、打ち上げ後に衛星からの信号を受信できたという。第2段の点火を中止した場合でも、衛星の分離はシーケンス通り実行される設計になっていたとのことで、分離後に衛星が予定通り起動し、信号を送信したと見られる。このことから、衛星は打ち上げ時の震動に耐え、海上に落下するまで、正常に機能していたようだ。
今後の焦点は、いつ原因が特定できるのか、そして原因は何だったのか、ということになるだろう。おそらくX線天文衛星「ひとみ」の事故のときのように、随時情報がアップデートされることになると思われるが、見通しは不透明。弊誌でも記者会見があればフォローしていく予定なので、続報をお待ち頂きたい。
SS-520ロケット4号機打ち上げの現地取材記事
・SS-520ロケット4号機現地取材 - 打ち上げは失敗! 第2段の点火を中止し、機体は海上に落下(速報)
・SS-520ロケット4号機現地取材 - 打ち上げは直前に延期! 風向・風速の変動の大きさが問題に
・SS-520ロケット4号機現地取材 - 射点で機体が公開、世界最小の衛星打ち上げロケットが姿を現す!
SS-520ロケット4号機の詳細記事
・JAXAが世界最小の衛星用ロケットを開発 - 今年度中に内之浦から打ち上げへ