前編では、2016年6月に開催された「第1回アクティブ・ラーニング実践シンポジウム」における発表内容の紹介を中心に、アクティブ・ラーニングが求められる背景、ならびに福島県内で進められているアクティブ・ラーニングの実践状況について述べた。
後編では、アクティブ・ラーニングがもたらす効果と今後の本格導入に向けた課題について掘り下げて考察していく。
アクティブ・ラーニング形式の授業が生徒に与える効果
シンポジウムの後半では、発表者をパネリストに迎え、会場にいる参加者からの質問に答えていく形で意見交換が行われたが、参加者の最大の関心事は、やはり「アクティブ・ラーニングは具体的に子どもの学びにどのように貢献できるのか」ということであった。本件については、福島県立相馬農業高等学校の加藤貢壽教諭より興味深い実践報告がなされたので紹介したい。
同校では、筆者が現在連載している「次世代アグリビジネス - 人材育成の観点から考える2030年の農林水産業」で紹介した「農業高校における経営・マーケティングプログラム」を、2年次の選択授業として導入している。このプログラムは、生徒が4~8名のグループを作り、それぞれのグループを疑似的な会社と見立てて、商品企画から事業計画立案、販売、決算まで1年間を通じて体験するというものだ。加藤教諭は、生徒が3年生に進級した後も、別の授業などを通して生徒の様子を見守っているが、このプログラムを受講した生徒と、受講していない生徒には日ごろの学習態度に違いがみられることに気付いたという。
一言でいえば、プログラムを受講した生徒は、総じて「自主性」や「積極性」が強い傾向にあるということだ。加藤教諭によると、相馬農業高校では3年次に課題研究という形で生徒自らがテーマを選び、年間で研究活動を行うのだが、プログラムを受講した生徒はまずその研究テーマを決めるのが早い。3年次の4月初旬に研究テーマを決めないといけないことはあらかじめ分かっているので、プログラムを受講した生徒の多くが、春休みのうちに自ら積極的にテーマを探索するようだ。また、実際に研究活動を始めてからも、製造材料を他のものに置き換えたり、作り方をインターネットで調べて工夫したり、といった自分なりのアイデアを豊富に出す傾向があるという。2年次に受けた年間プログラムを通じて、常に「経験したことがないこと」や「やり方が分からないこと」にチャレンジし続けることにより、新しい取り組みへの抵抗感が少なくなっていることが功を奏しているのではないか、というのが加藤教諭の見解である。
さらに興味深い点として、プログラムを受講した生徒は感情のコントロールに比較的長けているということも報告された。自分の意見が否定された場合でも、すぐに怒ったり無理やり我を通したりせずに、相手の話をよく聞き冷静に妥協点を見つけていく心構えができているのだ。実際、高校生くらいの年代だと、仲が良い生徒同士でも意見が食い違った際に折り合いをつける方法が、日常生活を通じて身に付いていないケースが多いそうだ。共同作業が前提の「経営・マーケティングプログラム」では、グループ内でしばしば意見が対立する。このような経験を乗り越えていくことが、大きな学びになっているようだ。
また、シンポジウムでは、アクティブ・ラーニングでグループ学習を実施する際のポイントと子どもへの効果についても議論された。例えば、福島県内で推進されている「OECD東北スクール」や「地方創生イノベーションスクール2030 東北クラスター」などの取り組みにおいては、学校や学年を超えてグループを作りワークショップを実施する機会が多い。時には、中学生と高校生の混合チームとなることもあるが、事前の大人側の予想に反して、中学生でも臆することなく自らの意見を積極的に発言するそうだ。さらに、学年や所属、性別などの点で多様性に富んだグループにおいて学習を経験した子どものほうが、その後の成長の幅が大きい傾向があるそうだ。実際、意図的に他地域・異学年の生徒で構成されるよう班組みを実施したOECD東北スクールの集中スクールでは、参加生徒から「いつもと違うメンバーとの作業は新鮮であり、楽しく、モチベーションがあがった」、「他地域の生徒のレベルの高さに直面し、ショックを受けた。同時に、もっと勉強しなければと思った」といった声があがり、その後の活動にもよい影響を与えたという1)。
上記はあくまでも例であり、すべてのアクティブ・ラーニング形式のプログラムに同様の成果を期待するのは早計であるが、アクティブ・ラーニングが子どもの学習態度に具体的にどのように影響するかを知る上で、大変興味深い報告ではないだろうか。