科学技術振興機構(JST)は1月12日、海水中に含まれる排泄物などのDNAから周辺に生息する魚種を明らかにする技術を使うことで、従来の目視調査で観察により得られる種の8割を検出できることを確認したと発表した。
同成果は、神戸大学の山本哲史 学術研究員、京都大学の益田玲爾 准教授、北海道大学の荒木仁志 教授、龍谷大学の近藤倫生 教授、神戸大学の源利文 特命助教、千葉県立中央博物館の宮正樹 生態・環境研究部長らによるもので、詳細は科学誌「Scientific Reports」に掲載された。
従来、魚類生物相調査は目視や漁具を利用するため、多くの労力と時間、高度な専門知識を必要としていた。そうした労力を軽減する技術として、近年、排泄物などとして水中に放出された魚類のDNAを解析する「環境DNA多種同時検出法(メタバーコーディング)」の活用に期待が集まっており、これまで世界中の海や川をフィールドとした研究が行われてきた。ただし、こうした研究の多くは、種多様性の低い地域での調査研究や生物種を区別する正確さに乏しい研究であったことから、研究グループでは、魚類全体を網羅的に検出できるように同技術を改良、日本沿岸のような生物多様性の豊かな海域での検証を行ったという。
具体的には、京都府北部の日本海に面する舞鶴湾を対象に、環境DNA調査と同程度の時期における潜水目視観察データ(合計140潜水分)を集計比較を実施。環境DNAメタバーコーディングの結果、計128種の魚類のDNAが検出され、潜水で観察された魚類の6割ほどが含まれていることを確認したという。この中には、潜水目視検査が行われてきた14年の調査期間の間に、数匹程度しか観察されていない稀な23種も含まれていたとのことで、こうしたなかなか出現しない魚類を除けば、1日の調査で、これまでの目視検査で観察された種の8割ほどが検出できたことになるという。
また、この調査から、これまで目視で観察されなかった魚種も20種以上検出できたとのことで、これについて研究グループでは、仔稚魚の状態で湾内に生息している魚種であり、目視調査では見落としやすいと考えられると説明しているほか、河口付近では淡水魚のDNAを検出したり、漁港付近ではそこで水揚げされている魚類のDNAも検出できたとしており、今回の手法の検出力が高いことが示されたとする。
なお、研究グループでは、今回の方法を用いることで、今までの調査法では困難だった「多地点」「高頻度」の魚類群集モニタリングが可能になり、これは、近年日本でも問題になっている外来種の侵入とその分布拡大のモニタリングを可能にすることにつながるとしているほか、深海や地底湖、危険な汚染水域や生物の採集が禁止されている保護区など、アクセスの困難な水域でも活用することが期待されるとしており、今後、環境DNAメタバーコーディング解析に必要な魚類のDNAデータベースを拡充させることで、より幅広い魚種が検出できるようになることが期待されるとしている。