国立成育医療研究センター(NCCHD)は1月12日、ヒトES細胞を用いて、ヒト腸管の機能を有する立体臓器を創り出すことに成功したと発表した。
同成果は、国立成育医療研究センター 再生医療センターの阿久津英憲 生殖医療研究部長、梅澤明弘センター長のグループと同 臓器移植センターの笠原群生センター長を中心とした研究グループによるもので、大日本印刷、東北大学などの協力のもとに進められ、詳細は米国医学誌「JCI insight」に掲載された。
近年、ES細胞のような多能性幹細胞を用いて、試験管の中で複雑な臓器を創り出す研究が各所にて進められているが、実用的な臓器を実現するには、さまざまな細胞種を用いて、組織を構成し、特定の機能を発揮させる必要があった。中でも、腸管は、内胚葉、中胚葉と外胚葉由来の細胞・組織が密に連携して、消化、吸収、腸管免疫や蠕動運動などを行い、発生上早期に各組織が分かれてしまうため試験管内での再現は極めて困難だと言われてきた。
今回、研究グループは、マイクロファブリケーション(微細加工)技術を培養底面の基材へ応用して、細胞の自己組織化する能力を引き出すことで、より高度で複雑な「小さい腸管(ミニ腸)」の試験管内での形成に挑戦したという。具体的には、異種成分を1つも含まないゼノフリー培養システムを開発。ヒトES細胞を用いて立体構造体を構築したところ、生体の模倣するように発生段階が形成されるとともに進んでいることを発見したほか、解析の結果、生体の腸管に近い組織形態を有していることを確認したという。
こうして創り出された立体構造体は、自律的に蠕動様の運動を行い、生体の腸同様に反応することが確認されたほか、吸収分泌についても生体腸のような機能を示すことも確認したという。また、このミニ腸は、試験管内で長期に生存し、薬剤試験にも繰り返し使用することができることも確認されたという。
研究グループでは今回の成果について、創薬開発において腸での吸収・代謝を評価する画期的な手段となり、薬の生体腸管に対する副作用を評価することも期待されると説明しているほか、多能性幹細胞から複数種類の細胞からなる複雑な生体組織を試験管内で作製し組織移植するという次々世代の再生医療への応用展開にも期待できるようになるとしている。