今日、何時に仕事を切り上げるか。それを周りに伝えている人はどれくらいいるだろうか。
これまで職場の共有情報としてはなじみがなかった「退社の予定時間」を示すカードを導入したのが伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)だ。カードを自席に掲げて、自分の退社予定時間を示しながら仕事をするもので、IT関連企業として企業のソリューション導入を行う同社からすると、かなりアナログな手法だ。
なぜ、「退社時間の見える化カード」を配布することになったのか。今回は、同社の人事総務部 人事部労務課の中尾征人課長に、この施策を中心とした同社の「働き方変革」についてお話しいただいた。
――退勤時間の見える化、ニュース記事を掲載したところ反響がありました。システムインテグレータである御社が、グループウェアなどのソリューション導入ではなく、物理的なカードを使うことにした理由は?
グループウェアの利用や予定の入力は以前から行っています。しかし、グループウェアでは自分に関わりのある社員、同じ部署、プロジェクトに関わる社員の一覧性は確保できますが、隣の部署や少しだけ関わりのある社員の勤務状況となると、都度検索しないと見られません。
今必要なのは、「彼/彼女は、何時に帰ろうとしているのか」「明日の予定は何なのか」が一目で分かりコミュニケーションを円滑にする手段なのだと考え、カードの導入を決めました。
――退社予定の時間を周囲に「宣言」するような格好にもなりますが、どういった効果を見込んでのことでしょうか?
一言で言えば、意識のすれ違いによる「付き合い残業」をなくすことができます。
例えば、Aさんが「今日は17時半に帰ろう」と決め、タイムマネジメントをした上で仕事をします。退社時間が近づくにつれ机の上がキレイになっていくのを見た同僚のBさんが、「今、手が空いているんだな」と考えて別の仕事の相談をもちかけ、Aさんは結局予定通りに帰れない……ということが、多く発生していました。良好なコミュニケーションが要因にもなっていたんです。
カードをさっと掲げてさえおけば、定時退勤するつもりだということが事前に、かつ周囲にいる誰もに伝わるので、不意の持ちかけはなくなり、その用事も翌日以降に調整できて、お互いに無駄がなくなります。
――クマのキャラクターを使った、かわいらしいカードですね。御社のイメージとは少し違うようで、率直に言うと意外です。
目と鼻がよく見るとCTCと社名になっていたり、定時退社のカードでカエル(帰る)の着ぐるみを着ていたり、遊び心を入れました。
スタイリッシュなテイストの案も考えたのですが、コミュニケーション円滑化が目的のカードなので、少しでも話題になるほうが浸透すると考えました。社員同士の話題にしてもらうことで利用率も上がると考え、このデザインに決めました。
――これ、紙ではなく、プラスチックで作られていますね。とてもしっかりした作りです。
毎日差し替えを想定して、丈夫な素材を選びました。退勤時間に応じて、クマの表情やカードの色を変えています。
――このカードは1人1セットずつ配られたのでしょうか?
はい、正社員・派遣社員問わず、全員に1人1セットずつ配布しました。
――かわいいデザインではありますが、自身のデスクに掲げていると、仕事の進捗管理への意識を周囲から把握されて、緊張感が高まりそうですね。
タイムマネジメントへの意識向上はもちろん、周囲が緑や青(定時退社、あるいは1~2時間程度の残業)の中で自分だけ赤、紫(3時間以上の残業)を掲げ続ける状況になった際、カードを掲げる前に上司に相談する、あるいは仕事を一部切り出して翌日に持ち越すなど、残って仕事をする以外の方法を考えるきっかけになると思っています。
――退社時間だけでなく、休憩を知らせる札もありますね。個人的にとても便利そうに思います。
効率化を目指して働き方変革をしたい、と社員のみなさんに伝えています。効率化するためには、休憩して集中力をあげることは良いことだと思います。そのため、休憩中にはきちんとカードを掲げられるよう、セットの中に入れました。
――カードの運用について、想定通りになされているか実行率などの測定はされていますか?
数値としての計測は意図していませんが、社内を見ている限りは、毎日差し替えていると認識しています。外出中や休暇中に急遽の予定変更があった場合、連絡を受けた人がカードを使用して差し替えるなど、柔軟に運用しているようです。