理化学研究所(理研)は1月11日、マウス網膜変性末期モデルを用いて、マウスiPS細胞由来の網膜組織を移植することで、光に対する反応が回復することを確認したと発表した。
同成果は、理研 多細胞システム形成研究センター網膜再生医療研究開発プロジェクトの万代道子副プロジェクトリーダーらによるもの。詳細は、米国の科学雑誌「Stem Cell Reports」に掲載されるのに先立ち、オンライン版に掲載された。
現在、世界中で成体幹細胞やES細胞、iPS細胞に由来した視細胞を変性網膜に移植する試みが行われているが、末期の網膜変性に対して、視細胞を移植してシナプスが形成されることを確認した報告はない。研究チームはこれまでに、マウスのES細胞やiPS細胞から自己組織化により分化させた立体網膜組織を網膜変性末期マウスの網膜に移植すると、移植片の中の視細胞は最終形態である外節構造まで成熟することを確認、移植先の神経細胞(双極細胞)との間にシナプスを形成する可能性があることを報告していた。今回の研究では、この研究をさらに進め、立体網膜組織の移植によって実際に光応答性を獲得できるかの検討を行ったという。
具体的には、網膜変性末期マウスにiPS細胞を使って作製した網膜組織を移植したところ、実際にシナプスの形成に必要な双極細胞の軸索末端と移植片内の視細胞のシナプス末端の接触が形成されていること、ならびに光シグナルの後に電気ショックを流し、それを避けられるかといった推定法を実施した結果、移植後の網膜変性末期マウス21匹のうち9匹の光シグナルに対する行動パターンが改善したことを確認。研究チームでは、今回の実験では、移植部分は全体の視野の5%にも満たないため、網膜のより広い範囲に視細胞を移植すれば、改善率(回避率)がさらに向上する可能性があると説明している。
また、移植後の網膜変性末期マウス7匹から網膜を取り出し、解析を行った結果、全例で移植部分に網膜全体としての光応答性の反応が検出されたほか、脳に直接電気信号を送る神経節細胞からも光応答性の反応を検出することに成功。移植片視細胞からの入力を受けた反応であることが示されるなど、光応答反応が回復していることを確認できたという。
なお、研究チームは現在、ヒトES細胞やiPS細胞由来網膜においても、視機能の検証を行っているとのことで、今後、末期変性の病態において、ヒトiPS細胞由来網膜移植によって光に対する反応が回復することを実証できれば、臨床研究への応用が期待できるとコメントしている。