ブルックヘブン国立研究所(BNL)、北京大学、東呉大学など米国・中国・台湾の共同研究チームは、耐久性に優れた燃料電池用の白金-鉛ナノ触媒を開発した。5万回の電圧サイクル後もほとんど劣化しないという。商用化されている白金-炭素触媒と比べて活性も高く、燃料電池自動車などへの応用が期待される。研究論文は科学誌「Science」に掲載された。

白金ベースの核(コア)を薄い殻(シェル)で包んだコア-シェル構造の触媒は、酸素還元反応を促進させる効果が高いことが知られている。ただし、使用を続けると燃料電池内の酸がコアと反応してしまうため、安定性と寿命が損なわれるという問題があった。

今回の触媒は、白金原子と鉛原子を規則的に並べてコアを形成し、その周りを厚さの揃った4層の白金シェルで取り囲む構造とした。これによってコアが保護され、触媒の耐久性が高まったと考えられる。耐久性試験では、5万サイクル後も、生成される電流量にほとんど低下がなく、構造組成にも変化が見当たらなかった。通常の触媒では、このような長いサイクル後には劣化が見られ、触媒活性がもとの半分以下に低下する場合もある。

今回開発された触媒の構造と酸素還元反応の模式図。紫色が白金原子、オレンジ色が鉛原子を表している (出所: BNL)

酸素還元反応触媒は、酸素分子間の結合を切断し、本来ゆっくりとしか進まない酸素と水素の結合反応を促進させるために使われる。このためには触媒表面と酸素の結合性が強すぎても弱すぎてもいけないとされ、これまでの研究から、最適な結合性を持つ白金表面は圧縮応力をかけて歪ませたPt(111)と呼ばれる結晶方位で得られることがわかっていた。白金表面に圧縮応力をかけるには、コア部分に白金原子よりもサイズの小さな金属原子(ニッケルなど)を加える。

しかし今回の研究では、白金よりも大きな鉛原子を加え、この2つを原子レベルで規則的に並べてコアを形成した。そして、この白金-鉛コアを、通常の白金ベースのナノ触媒と比べると厚い原子4層分のシェルで保護した。白金原子よりも大きな鉛原子が入っているので表面には引張り応力がかかるはずである。従来は、表面全体に引張り応力がかかると触媒表面と酸素の結合性が強くなりすぎて触媒の働きは阻害されると考えられていた。しかし、実際の触媒活性は向上することが実験的に示された。酸素還元反応だけでなく、メタノールおよびエタノールの酸化反応に対しても高い活性と耐久性を持つことが確認された。

作製した白金-鉛ナノ触媒を、走査型透過電子顕微鏡(STEM)や電子エネルギー損失分光法などの手法で詳細に分析した結果、触媒表面は圧縮応力と引張り応力がそれぞれ別方向にかかっていることがわかった。また、結晶方位は圧縮応力をかけたときのPt(111)ではなく、Pt(110)という別の方位であることも分かった。さらに、触媒活性の高さがPt(110)表面にかかる引張り応力に起因することも、酸素原子と白金原子の結合エネルギーの計算によって確認された。

従来は触媒反応の阻害要因になると考えられてきた触媒表面での引張り応力が、触媒活性を高めるために利用できるとわかったことで、これまでより触媒設計の幅が広がったと言える。