人口の多さや平均所得の高さ、EC市場の急成長などで、海外進出先として注目を集めているタイですが、現地ではプミポン前国王の逝去以来、派手な商業活動や広告の自粛ムードが広がっています。
日系企業のビジネスへの影響も懸念される中、現地の消費動向を把握するため、タイ消費者へのグループインタビューを行いました。
消費マインドを把握し、今後の動向を予測
タイでは10月13日のプミポン前国王の逝去以降、多くの企業が広告出稿を取りやめるなど、経済活動の自粛ムードが広がっています。消費者が派手な交遊や消費を控える兆候も見られ、現地でビジネスを手がけている日系企業や、タイへの越境ECに取り組む企業への悪影響も懸念され始めました。
こうした状況を受け、東南アジア全域で市場調査を手掛ける株式会社DI Marketingと、日系企業の海外進出やソーシャルメディア・マーケティングを支援しているアライドアーキテクツ株式会社が共同で、タイの消費動向を調査するグループインタビューを企画。11月22日にアライドアーキテクツのセミナールームと現地をSkypeでつなぎ、20~30代の消費者6人にグループインタビューを行いました。
グループインタビューを企画した株式会社DI Marketingの志村宏己氏は、タイで商業活動の自粛が続いていることについて、「現地で事業を行っている企業はもちろん、タイへの進出を検討している企業も注視すべきトピックス」と指摘。「タイの消費者のリアルな声を聞くことで、現在の消費マインドを把握し、今後の動向を予測したい」とグループインタビューの目的を説明しました。
グループインタビューの目的を説明する株式会社DI Marketing ・JapanCountryManager 志村 宏己 氏 |
20~30代の消費者6人に本音を聞いた
グループインタビューは20~30代の男女6人が対象。2班に分け、それぞれ約50分間で実施しました。国王の逝去というセンシティブなテーマのため、慎重に質問を選びながら、消費者の本音に迫りました。
<グループインタビューの方法>
【対象】20~30代の男女6人(第1部は20代3人、第2部は30代3人)
【時間】約50分間ずつ
【質問】プミポン国王逝去後の感情や行動、消費の変化について
【主な回答】
■現在の率直な思いや感情
「逝去直後は喪失感から、何をして良いかわかならなかった」
「今後、国がどのように変わるのか不安」
「逝去から1カ月たっても変わらず悲しいが、前に進まなくてはいけないと思っている」
「国王の写真や映像を見ると、悲しい気持ちが蘇る」
■消費行動は、どのように変化したか
「外食や、友人との交遊が減った」
「派手な消費を控え、節約するようになった」
「生活必需品への支出額は変わらないが、娯楽への出費は減った」
「追悼式典に何度も参加し、そのための出費が増えた」
「プミポン国王に関する書籍や記念紙幣などを買うことが増えた」
「多くのイベントが中止になったため、外出の頻度が減った」
■旅行の頻度の変化と、その理由
「旅行に行く気分ではないため、友人との旅行の計画をキャンセルした」
「正月に旅行に行きたいと思っていたが、経済状況も不透明なので、見送ろうと思う」
■旅行に行くとしたら、文化的な体験ができる場所と、リゾート地のどちらが良いか
「日本の京都など、文化的な旅行には行きたい」
「リゾート地に行きたい。なにも考えずにリラックスしたい」
■睡眠時間の変化と、その理由
「逝去直後は、悲しくて寝付けないことが多かった」
「深夜までSNSで前国王に関するニュースを読み、寝るのが遅くなることが増えた」
■消費チャネルやECの利用に変化はあったか
「オンラインの買い物の頻度はそれほど変わらない」
「逝去後、前国王関連の商品をオンラインで見つけると、関心を持つようになった
「日用品や食品の買い物は、近場で済ませるようになった」
■ソーシャル・ネットワーキング・サービスの利用状況に変化はあるか
「前国王逝去のニュースや、その他のニュースをFacebookやTwitterで読むことが増えた」
「Facebookに投稿される写真は白黒写真が増えた」
「今は、SNSに馬鹿騒ぎしているような写真を投稿すべきではないと思う」
■追悼ムードはいつまで続くと思うか
「長い期間、悲しみの中にいるのではないかと思う」
「来年、追悼式典が全て終わるまで続くと思う」
「追悼ムードが長く続いて欲しい。なぜなら、追悼によって国民の心が一つになっていると感じるから」
外食やアルコールの摂取量、交遊時間が減少
グループインタビューの様子からは、前国王の逝去によってタイの国民が大きな喪失感を抱いていることが伝わってきました。気分の落ち込みによって外食や交遊の回数が減っていることや、国全体が追悼ムードにある中で、夜遊びや派手な消費を控えている様子も窺えました。
ECの利用頻度については、今回のグループインタビューでは大きな変化は見られませんでした。一方、SNSの使い方には大きな変化が起きており、楽しげな写真の投稿を控えていることや、SNSに投稿される写真の多くが白黒写真であること、Facebook広告の表示が減っていることなどが語られました。また、プミポン前国王に関連するニュースや記事をFacebookなどで読むことも増えているようです。
グループインタビューを終え、DI Marketingの志村氏は、「旅行に行きたいか聞かれた参加者が、最初は目的地によると答えていたが、最後は、リラックスしたいから海に行きたいと打ち明けるなど本音も垣間見えた」と感想を述べました。また、事前にタイ国内で実施したオンラインの定量調査では、外食の頻度やアルコールの摂取量、交遊時間が減っていたとする結果に触れ、「定量調査で見られた傾向がグループインタビューで改めて確認できた」と総括しました。
第2部「Facebook広告を活用した段階的東南アジア進出プラン」
海外進出の成功確率を高める3ステップ戦略とは?
グループインタビューに続き、アライドアーキテクツ株式会社アドテク事業部の村岡弥真人部長が、「Facebook広告を活用した段階的東南アジア進出プラン」と題するセミナーを行いました。東南アジア各国のEC市場の動向を踏まえ、Facebook広告を活用したテストマーケティングの手法や、海外進出の成功確率を高めるための戦略について解説しました。
急成長が続く東南アジアのEC市場
村岡氏は冒頭、東南アジア各国のEC市場が急成長している現状を取り上げ、「東南アジアの成長率は他の地域と比べて圧倒的に高い」と指摘しました。東南アジア全域のEC市場の規模は、2013年から2017年にかけて約1.7倍に拡大する見通しであることを説明。2020年時点におけるASEAN 6カ国(タイ、シンガポール、マレーシア、フィリピン、ベトナム、インドネシア)のEC市場の合計金額は、2013年時点の日本のEC市場とほぼ同じ規模の10兆円程度まで拡大するとの見通しを示しました。
続いて、日系企業が東南アジアに進出する際のポイントとして、「東南アジアに進出するプロセスを3段階に分け、段階的に事業展開することで成功しやすくなる」と述べ、3つのフェーズについて次のように説明しました。
<東南アジア進出の3つのプロセス>
フェーズ1:非進出、非在庫型EC
在庫を日本で保管し、国際スピード郵便(EMS)で配送する越境ECを行う。自社の商品に対するニーズが、どの国にあるのかを探るためのテストマーケティングの意味合いが強い。
フェーズ2:非進出、委託型EC
本格的に進出する国が決まったら、現地のEC支援会社と契約し、現地での在庫保管やマーケティング、決済、配送、通関処理などを委託する。委託先は、例えば、東南アジア最大規模のEC支援会社「aCommerce社」などがある。
フェーズ3:現地法人設立、本格進出
委託型ECで売り上げを拡大した後に、現地法人の設立など、本格的な進出を検討する。
Facebook広告をテストマーケティングに活用
続いて村岡氏は、「フェーズ1」のテストマーケティングにFacebook広告が有効であることを説明しました。東南アジアのインターネット人口に占めるFacebook利用率は80~90%に達していることを挙げ、「東南アジアにおける広告媒体としての影響力は、今やGoogleやyahooをも凌ぐ」(村岡部長)と指摘。Facebook広告をテストマーケティングに活用した成功事例として、名刺管理サービスを提供しているSansan株式会社が東南アジア各国でFacebook広告を展開し、反響率が最も高かったシンガポールへの進出を決めた件などを紹介しました。
“Facebook広告は細かいターゲティングを行えるため、テストマーケティングの広告プラットフォームとして使い勝手が良い。どの国に、どのように進出すれば良いかを判断するためのツールとして有効だ(村岡部長)”
さらに、東南アジア各国におけるFacebook広告のKPIデータを取り上げ、Facebook広告のCTR(クリック率)やCPC(クリック単価)、CPM(表示1000回あたりの費用)などは日本より優れていることを説明。例えば、香港や台湾のCPAは0.47ドル(約50円)と日本の約半額程度であることなどを紹介しました。
現地の消費者の心をとらえるクリエイティブとは?
また、Facebook広告で効果的なクリエイティブを作るポイントについては、「現地の文化や言語にあったクリエイティブを使い、消費者の記憶に残りやすい広告を作ることが成功のポイント」とし、クリエイティブによるSNS広告の成功事例の一つとして、音楽ストリーミング配信大手のSpotify(スポティファイ)がマレーシアで配信したバナー広告を紹介。
マレーシアのナショナルアニマルであるトラがヘッドホンを付けている写真を使った結果、顧客獲得効果が通常の3倍に跳ね上がるなど大きな成果を上げたそうです。「広告を制作した現地のクリエイターが、マレーシア国民はトラに親しみを感じることを理解していたため、効果的なクリエイティブを作ることができた」(村岡氏)と説明しました。
こうした事例を踏まえ、アライドアーキテクツは93か国に1万2000人のデザイナーを抱え、各国の言語や文化、価値観に合わせたクリエイティブを現地のクリエイターが制作する「ReFUEL4」というサービスを構築。海外進出している企業に対し、国ごとに最適なクリエイティブの制作を支援しています。
市場調査からマーケティングまで総合的に支援
村岡氏はセミナーの最後、東南アジアへ進出する際のポイントについて、「まずはFacebook広告を活用して、自社の商品が、どこの国で売れるかを把握し、その後、aCommerce社などを活用して委託型ECに取り組む方法を提案したい」と総括。aCommerce社やDIマーケティング社などと提携していることにも言及し、「海外進出のための市場調査や委託型EC、現地のプロモーションなどを総合的にサポートできる」と述べ、セミナーを終えました。
今回のセミナーは、タイの消費者の生の声を聞ける貴重な機会とあって、熱心に聴講する参加者が目立ちました。また、セミナー終了後には個別相談を行う参加者の姿も多数見られ、東南アジア進出への関心の高さが窺えました。
<取材・執筆>
ライトプロ株式会社 渡部 和章
本稿は、ソーシャルメディアマーケティングラボにて掲載された記事を転載したものです。
関連記事
中国人インフルエンサー動画で売上UP!中国越境ECで躍進するエンジェリーベの動画プロモーション戦略とは?【企業担当者に聞くSMM最前線】
タイからの「訪日ブーム(インバウンド)」を牽引タイと日本の架け橋となるタイの国民的スーパースター ジェームス・ジラユ氏インタビュー