IDC Japanは12月13日、2017年の国内IT市場においてカギとなる技術や市場トレンドなど主要10項目を発表した。同社のアナリストが予測する2017年の国内IT市場におけるTop 10 Predictionsの概要は以下のとおり。

2017年 国内IT市場 Top 10 Predictions

説明会では、リサーチバイスプレジデントの中村智明氏が説明を行った。10の主要項目のうち興味深い項目について、同氏の説明のポイントを紹介したい。

産業間のエコシステム連携により、第3のプラットフォーム上にDXエコノミーが萌芽

IDC Japan リサーチバイスプレジデント 中村 智明氏

同社は、デジタルトランスフォーメーション(DX)を「モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、クラウド、ソーシャル技術などの第3のプラットフォームにより、顧客が体験することや企業が新たな生産性のレベルを達成するビジネス機会を生み出すこと」と定義している。

DXに関わるサービスは、ビジネスに関連するパートナーやクライアントとの協業を通して新規ビジネスを創造するエコシステムの形成を促しており、2017年はこうしたエコシステムによる産業内や産業間の連携がマクロ経済に影響を及ぼし、新たなDXエコノミーを形成する変革の萌芽が見られる年になるという。

さらに、中村氏は「2017年は第4のプラットフォームの先行事例が登場する」と述べた。第4のプラットフォームとは、ITが人体に入り込んで生態系と統合し、細胞レベルでデジタル技術を人体に応用させていく「Augmented Humannity(AH)」を指す。

産業間のエコシステム連携により、第3のプラットフォーム上にDXエコノミーが萌芽

ランサムウェアの被害拡大が、脅威インテリジェンスと認知システム/AIを活用したセキュリティ製品の開発を加速

今年は、とにかくランサムウェアによる被害が深刻だったが、同社は2017年もランサムウェアの被害は拡大すると予測している。ランサムウェアに感染すると、システムがロックされたり、ファイルが暗号化され使用不能になったりするが、攻撃者はそれらを復旧するための身代金(ransom:ランサム)をマルウェアの作者に支払うように要求してくる。

中村氏は2016年2月に発表された米国の病院Hollywood Presbyterian Medical Centerがランサムウェアに感染してシステムがダウンし、身代金を払ってシステムを復旧させた例を挙げ、「ランサムウェアは業務停止を引き起こす点で企業に致命的な影響を与える」とその破壊力の大きさを示した。

こうしたランサムウェアの対抗策として、2017年はセキュリティ関連情報のリアルタイム監視と相関分析により異常を検知する製品や認知システムやAIを搭載したセキュリティ製品の開発が進むという。

中村氏によると、Cylanceが提供するDeep Learning型の潜在的なマルウェアの検知を行うソフトウェアは、従来型のアンチウイルス・ソフトウェアが検出できないマルウェアを検出できるという。トレンドマイクロやシマンテックといった大手のセキュリティ・ベンダーもCyalnceの動きに追随しているとのことだ。

ランサムウェアの被害拡大が、脅威インテリジェンスと認知システム/AIを活用したセキュリティ製品の開発を加速

IoT事業者の競争軸は「IoTプラットフォーム」から「データアグリゲーションプラットフォーム」にシフト

中村氏は、2016年は大手ベンダーからさまざまなIoTプラットフォームが発表されたことから、「企業はプラットフォームの違いが見えにくく、どれを選べばよいのかの見極めが難しい状態にある」と指摘した。

こうした背景の下、2017年は、「データアグリゲーション」がIoT事業者の選択基準になるという。同社は、データアグリゲーションを、「IoTとして生成されるSoE(Systems of Engagement)データだけでなく、SoR(Systems of Record)データも含めたさまざまなデータを集約し、分析することで、新しい付加価値を生み出すこと」と定義している。

同氏は「データアグリゲーション」の例として、「運転行動連動型テレマティクス保険」を紹介した。損保ジャパン日本興亜が提供する、10台以上の自動車保険を契約する「フリート契約」は事故が少なければ翌年度の優良割引率が上がる商品で、フリート契約者に対し、運転情報に基づく事故防止サービス「スマイリングロード」を提供している。

損保ジャパン日本興亜は、SoRに当たる従来のシステムで管理している顧客の運転履歴や事故歴を管理する一方、日立製作所と日産自動車がSoEに当たるドライブレコーダーから取得したアクセルやブレーキを踏む速度を収集・分析し、それぞれが抱えるデータをもとに保険料率が算出される。つまり、安全な運転をしていれば、保険料も安くなるというわけだ。

中村氏は「自分の運転状況が記録されていると思っていると、自然と運転も慎重になり、事故も減るはずで、一石二鳥」と語った。

DXの普及が、エンタープライズインフラストラクチャの選定基準とITサプライヤーの競合関係に変化をもたらす

「エンタープライズ向けのインフラ市場はよい状況ではないが、明るい話もある」として、エンタープライズ向けインフラ市場における注目トピックを紹介した。

まず、エンタープライズインフラストラクチャ市場(サーバ、外付け型ストレージ、スイッチ)の2017年の支出は前年比マイナス5.3%の7147億円と予想される中、同年のクラウド向けの支出は1776億円と前年比12.7%となることが見込まれているという。

また、2017年、コンバージドシステム市場は前年比20.3%増の577億円、ハイパーコンバージドシステム市場は前年比71.6%増の155億円が見込まれるが、中村氏はその成長要因について「ファイアウォールの中で、クラウドと同様に、導入がスピーディー、スモールスタートが可能、拡張性が高いといったメリットが得られること」と説明した。

さらに、オールフラッシュアレイの市場も、2017年は前年比38.3%増の214億円の支出が見込まれているという。中村氏はオールフラッシュアレイを利用するメリットについて、「データベースの高速化のためのチューニングが不要になることから、これまで多くの時間がかかっていた夜間バッチの時間が短縮され、その分、ビッグデータの分析に時間を回すなんてことも可能になる」とした。