富士通は11月29日、都内で記者会見を開き、2015年11月に「Human Centric AI Zinrai(ジンライ、以下、Zinrai)」として体系化したAI(人工知能)に関する知見や技術をベースに、Zinrai関連のサービス5つを開発し、順次提供を開始すると発表した。
今回、同社が開発したサービスは、「FUJITSU AI Solution Zinraiディープラーニング」「FUJITSU AI Solution Zinraiプラットフォームサービス」「FUJITSU AI Solution Zinrai活用コンサルティングサービス」「FUJITSU AI Solution Zinrai導入サービス」「FUJITSU AI Solution Zinrai運用サービス」の5つとなる。
Zinraiプラットフォームサービスは、AI活用に関連した300件を超える問い合わせやユーザーとの実証実験から抽出された特にニーズが高く、実用性を備えるAI機能をAPIとして提供するサービス。学習モデル構築機能により、あらかじめ用意した学習モデルを活用するだけでなく、ユーザーが業務で必要となる新たな学習モデルを容易に生成することも可能だという。
同サービスについて説明を行った富士通 執行役員 デジタルサービス部門AIサービス事業部担当の菊田志向氏は「AIはIoTと親和性が高いため、機械や自動車など組み込み型ソフトウェアが動作するIoTデバイスに対し学習済モデルを配信する仕組みを来年には搭載する。これにより、センシングされたビッグデータの集積・解析と、新たに成長した学習モデルのIoTへの配信という成長サイクルを構築していく。今後、AIをセキュリティ、クラウド、IoTに並ぶ中核事業として位置づけ、2020年度末までAI関連ビジネスで累計売上高3200億円を目指す」と意気込みを語った。
また、ディープラーニング基盤を必要とするユーザーには、同サービスに含まれる世界最速クラスのディープラーニング基盤Zinraiディープラーニングを提供する。同サービスは、AIの要素技術ごとに「知覚・認識」「知識化」「判断・支援」の3分野に分類された基本API21種と、要素技術を利用シーン別に組み合わせ、業務でのAI活用を容易にする機能やナレッジで構成した目的別API9種類の合計30種類を提供する。
そのほか、スーパーコンピュータ「京」で培われたプロセッサ開発技術と最先端のCMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductorの略。相補型金属酸化膜半導体)テクノロジーを採用した、独自のディープラーニング専用AIプロセッサ「DLU」(Deep Learning Unitの略)の開発を進め、2018年度からの出荷開始を目指す。
ディープラーニング技術について富士通 サービスプラットフォーム部門 アドバンストシステム開発本部長の野田敬人氏は「DLUの特徴としては独自のアーキテクチャを採用し、徹底した省電力設計により他社比約10倍の電力あたり性能を目標としている。また、スパコンのインタコネクト技術を適用することで大規模ニューラルネットワーク処理が可能になっている」と述べた。
ユーザーは、複数のAPIから必要なものを選択・利用することで、AI活用システムを迅速に実現できるという。第1弾として「画像認識」「音声テキスト化」「知識情報検索」などの基本API7種類と「需要予測」などの目的別API2種類を2017年4月より先行提供し、2017年度中に30種類まで拡充する方針だ。
さらに、ZinraiディープラーニングはZinraiプラットフォームサービスの一環として、富士通研究所が開発したスーパーコンピュータの並列処理技術と高速なディープラーニング処理を実現するソフトウェア技術、および最新GPU「NVIDIA Tesla P100」を実装することで世界最速クラスという学習処理能力を実現したディープラーニング基盤サービスとして提供。同サービスをベースに、ユーザーごとに最適なAPIと組み合わせて利用することで、高速・高品質なAI活用システムを実現することを可能としている。
加えて、ユーザーのAI活用における企画から導入、運用までをトータルに支援するため、同社のAI専任コンサルタントが経営課題やニーズから最適なAI活用シナリオを導き出すZinrai活用コンサルティングサービスと、AIを活用したシステムの短期間での設計、構築を支援するZinrai導入サービス、AI導入後の学習モデルのメンテナンスを行うZinrai運用サービスを提供する。
今後、AIの活用領域が拡大していく状況を受け、富士通研究所が中心となって開発したAIの要素技術のAPI化を推進するとともに、通信の端末やロボット、自動車などのエッジデバイスでのAI活用を強化するため、Zinraiプラットフォームサービスにそれらの機器への学習済モデル配信機能を実装する考えだ。また、AI活用システムを自社内に構築したいユーザー向けにZinraiのハードウェア、ソフトウェア、サービスをパッケージ化したオンプレミス商品を提供していく。
富士通 執行役員常務 グローバルマーケティング部門長の阪井洋之氏は「2015年11月のZinraiの発表以来、顧客やパートナーとの共創や産学連携などを進めたほか、社内業務の自動化・高度化を通じた強化を図るとともに、Zinraiの技術を各種ソリューションに組み込み、提供している。今回、われわれはデジタルビジネスプラットフォーム『MetaArc』の1つのサービスとして『Zinrai プラットフォームサービス』を提供する。Zinraiの強みは顧客との共創や社内実践で培った業種・業務ノウハウをAPIとしてサービスメニュー化するほか、スパコンで培った世界最速暮らすのディープラーニング技術などの最先端・独自AI技術、AIの専門技術者などによるAI活用のトータル支援が挙げられる。今後、2016年度は700人だったAI体制を2018年度までに1500人まで拡大していく」と説明した。