マサチューセッツ工科大学(MIT)とブリガム・アンド・ウィメンズ病院の研究チームは、経口投薬用の新型カプセルを開発した。飲み込んだ後、カプセルが胃の中に最長2週間とどまり、薬を少しずつ放出する。治療のために何度も繰り返して薬を飲む不便さが解消される可能性がある。マラリアなどの感染症対策として集団投薬を行う際にも効果を発揮すると期待されている。研究論文は、医学系論文誌「Science Translational Medicine」に掲載された。
研究チームは今回、マラリア抑制効果が期待されている薬品「イベルメクチン」の投与に新型カプセルを用いる実験を行った。イベルメクチンはアフリカなどで風土病治療に用いられており、開発者の北里大学・大村智氏は2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞。イベルメクチンを服用している人の血液を吸った蚊が、死んだり弱ったりする効果があることがわかり、蚊によって媒介されるマラリアなどの感染症拡大防止にも役立つと考えられている。
マラリア撲滅運動にイベルメクチンを利用するシナリオでは、感染者か否かに関係なく、マラリアが広がっている地域の全住民に対して、抗マラリア薬アルテミシニンとイベルメクチンをセットにして服用させることが想定されている。しかし、これらの薬をすべての住民に毎日服用させることは現実的には困難である。1回の投与で効果が長期間持続するようにできれば、集団投薬の効果は大幅に上がると期待される。
薬の長期投与を実現するためには、胃の中の過酷な条件下にとどまって安定して薬を放出しつづけることができる経口カプセルが必要となる。また、薬の放出を終えたカプセルは分解され、消化管を通って安全に体外に排出できなければならない。
研究チームは今回、このような基準を満たして機能するような6本の腕からなる星型の構造を設計した。腕はポリカプロラクトン(硬質の高分子材料)でできており、なめらかなカプセルの内部に折りたたんで収容することができる。薬の分子はこの腕の内部に充填され、腕はリンカーによってゴム状の核につながれる。リンカーは最終的に体内で分解されるように設計されている。
カプセルを口から飲み込むと、胃液の酸によってカプセルの外層が溶かされ、折りたたまれていた6本の腕が伸びる。腕が広がることで、胃の中にとどまり、消化管の下方に物体を押し出す力に抗うだけの大きさが確保される。ただし、消化管の働きを阻害するほど大きくはならないように設計されている。
ブタを使った実験では、薬が2週間にわたって段階的に放出されることが確認された。その後、腕と核をつなぐリンカーが溶け、腕は解体される。バラバラになった状態であれば、腕は消化管内を安全に通過して排出できる。
インペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)などは、今回の研究の一環として、新型カプセルによる集団投薬の効果を数学的モデリングを用いて検証。新型カプセルを使ってイベルメクチンとアルテミシニンの集団投薬を人口の70%に対して行った場合、アルテミシニン単体の投与を人口の90%に対して行った場合と同等のマラリア抑制効果が期待できるとの予測結果を得ている。
なお、今回の研究ではイベルメクチンを用いたが、繰り返し投与が必要な経口薬であれば、どんな種類のものであっても同じ構造のカプセルが使えるという。