東北大学と理化学研究所(理研)は11月18日、遺伝子の発現を制御する因子Pax6の変異がリスク要因となり、父親の加齢が子孫の行動に影響を及ぼすことを明らかにしたと発表した。

同成果は、東北大学大学院医学系研究科 大隅典子教授、吉崎嘉一助教、理化学研究所バイオリソースセンター 若菜茂晴チームリーダー、古瀬民生開発研究員、イタリア科学技術研究所 Valter Tucci教授らの研究グループによるもので、11月17日付けの米国科学誌「PLOS ONE」オンライン版に掲載された。

自閉症スペクトラム障害や注意欠陥・多動性障害等の発達障害では、神経発生やシナプス形成に関わる遺伝子など、800個以上の遺伝子が関係すると考えられている。一方、環境要因の関与もあり、たとえば母親が周産期に感染した場合や、高齢あるいは肥満の父親から生まれた子どもに発症率が高いことが報告されている。このように、自閉症スペクトラム障害には多数の遺伝子や、遺伝子-環境相互作用が複雑に絡み合うことが想定されているが、その詳しいメカニズムについては明らかになっていない。

同研究グループは今回、自閉症スペクトラム障害および注意欠陥・多動性障害の病態基盤における遺伝子-環境要因相互作用について検討するために、若齢(3カ月齢)および高齢(12カ月齢)のオスマウスより得られた精子をもとに、体外受精により得られたPax6変異の仔マウスを用いて網羅的行動解析を実施した。

この結果、若齢の父親マウスから生まれたPax6変異マウスは、超音波の鳴き声の低下を示した。一方で、高齢の父親マウスから生まれたPax6変異マウスは、自発的な活動量を測定するオープンフィールド試験、および尾から吊されたされたマウスが動かなくなる時間を測定する尾懸垂試験において、自発運動量の増加を示した。

自発運動量の増加は、若齢の父親マウスから生まれたPax6変異マウスでは観察されず、また高齢の父親マウスから生まれた野生型マウスにおいてもみられないことから、転写因子であるPax6の変異というリスク素因と、父親の高齢化の影響が協調的に作用することにより、仔マウスの多動傾向が引き起こされたと考えられる。

したがって、同一の遺伝子変異をもつマウスでも、父親の年齢により多様な表現の行動異常を示すこと、つまり遺伝的なリスクの次世代への伝わり方が父の加齢によって異なることが示されたといえる。

同研究グループは、今後、父親の高齢化がどのようにして次世代の行動様態に影響を及ぼすのか、その分子メカニズムを解明していきたいとしている。

今回の研究成果の概念図