地球上での放射性同位体のベータ崩壊の崩壊率が、太陽から放出されているニュートリノに影響を受けている可能性が強まってきた。ベータ崩壊と太陽ニュートリノの相関性が確かめられれば、これを利用した簡易な太陽ニュートリノ検出装置の開発につながり、ニュートリノ研究や太陽内部の観測技術などが進展する可能性がある。スタンフォード大学らの研究チームが、学術論文誌「Solar Physics」上で報告した。
2009年、パデュー大学らの研究チームは、シリコンの放射性同位体32Si(半減期132年)などのベータ崩壊速度に年単位でのわずかな変動があることを報告していた。しかし、放射性物質のベータ崩壊速度は常に一定であると考えられており、この変動の理由ははっきりしなかった。太陽由来のニュートリノが変動の原因であるとする説が唱えられたが、論争が続いていた。
スタンフォード大学の研究チームは今回、ブルックヘブン国立研究所における32Siのベータ崩壊速度の測定データ364例と、日本のスーパーカミオカンデにおける太陽ニュートリノ流束観測データ358例を比較分析した。
その結果、ベータ崩壊速度の変動には年単位の偏差だけでなく、11年周期および12.5年周期の振動があることがわかった。また、スーパーカミオカンデのニュートリノ観測データの分析からは、9.5年周期および12.5年周期の振動が見つかった。12.5年周期の振動は、太陽の放射層の回転周期に一致する。9.5年周期の振動は太陽の核の回転周期に対応し、11年周期は太陽核と放射層のあいだの領域(タコクライン)に由来していると考えられる。地球上の放射性物質のベータ崩壊と太陽活動の相関性を強く示唆する分析結果だ。
太陽の内部では、水素核融合反応でヘリウムの原子核が生成される際に、陽電子2個と電子ニュートリノ2個が生成される。岐阜県・神岡のスーパーカミオカンデでは、太陽ニュートリノの観測を継続的に行っており、その観測データをもとに太陽の内部構造などに関する研究が進んでいる。
スーパーカミオカンデは、直径39.3m、高さ41.4mの巨大な水タンクの内壁に、1万本以上の光電子倍増管を設置した大規模な観測施設。一方、放射性物質のベータ崩壊速度に太陽ニュートリノが直接的な影響を及ぼしていることが確認されれば、これを利用した新しい簡易な観測装置を開発できる可能性が出てくる。研究チームでは、1台あたり数千ドルのコストで実現できる卓上型ニュートリノ検出器の実現可能性についても検討しているという。当面は、より多くのデータを収集し、相関性を説明できる理論の構築を進めていくとしている。