理化学研究所(理研)などは11月15日、小児慢性疲労症候群の患児の脳では、低い報酬しか獲得できなかった場合に、線条体の被殻と呼ばれる領域の神経活動が低下していることを明らかにしたと発表した。

同成果は、理研ライフサイエンス技術基盤研究センター健康病態科学研究チーム 渡辺恭良チームリーダー、水野敬上級研究員、熊本大学大学院生命科学研究部 上土井貴子助教らの研究グループによるもので、9月28日付けのオランダ科学誌「Neuroimage: Clinical」に掲載された。

小児慢性疲労症候群(CCFS)は3カ月以上持続する疲労・倦怠感および睡眠・覚醒リズム障害を伴う病気。不登校の児童・生徒に多く発症が見られ、CCFSに伴う学習意欲の低下や記憶・注意力の低下が、学校生活への適応を妨げている可能性があるという。

こうした意欲が低下する背景として、報酬感受性が低下していることが考えられる。報酬感受性が低いと報酬感が得られず意欲がわきにくくなるため、学習等の持続的な行動を起こしにくくなることが知られている。

これまでの研究で、注意欠陥多動性障害(AD/HD)の患児では、報酬感受性が低下しており、金銭報酬を獲得した際に、線条体と呼ばれる脳の領域の活動が低下していることが明らかになっている。CCFS患児の意欲低下の症状についても、報酬の感受性低下が関係している可能性があるが、CCFS患児での報酬感受性に関わる脳内メカニズムはこれまで解明されていなかった。

そこで同研究グループは今回、CCFS患児13名と健常児13名を対象に、金銭報酬を伴うカードめくりゲーム遂行中の脳活動状態を、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)で測定。その結果、CCFS患児と健常児いずれも、高い金銭報酬を得た場合(高報酬)は、線条体(尾状核と被殻)と呼ばれる脳領域が活性化していることがわかった。一方、低い金銭報酬額しか得られなかった場合(低報酬)は、CCFS患児の被殻の活性度が健常児に比べて低下していることがわかった。

次に、この被殻の活性度が、疲労症状の程度や、普段の学習において十分な評価・成績が得られているか(学習による報酬感)の程度と相関しているかを調べたところ、疲労の症状が強いほど、または学習による報酬感の程度が低いほど、低報酬獲得時の被殻の活性度が低いことが明らかになった。したがって、CCFS患児の学習意欲低下には、低報酬知覚時に線条体が活性化されない状態、つまり報酬の感受性の低下状態が関係していることが示されたといえる。

線条体はドーパミン神経が豊富に存在する脳領域であり、報酬知覚時のドーパミン神経の活性低下と意欲低下と関連している可能性が推察されることから、同研究グループは、CCFSの治療法として、ドーパミン神経系を標的とする投薬などの可能性が考えられると説明している。

高報酬獲得時(左)と低報酬獲得時(右)の線条体(尾状核と被殻)の活性化の様子を示した図。高額報酬を獲得した際の健常児とCCFS患児の線条体は同程度に活性化した一方で、低額報酬を獲得した際のCCFS患児の被殻の活性度は健常児に比べて低下した。下段の「健常児>CCFS患児」は、健常児のfMRI像とCCFS患児のfMRI像の差分をとったもので、健常児で活性度が高い領域が浮かび上がっている (画像提供:理化学研究所)