カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)の研究チームは、メタマテリアルを利用することで、半導体を使用しないマイクロ電子デバイスを作製することに成功した。メタマテリアルで構成されたデバイスに光を照射することで電気伝導度が1000%増加することを示した。研究成果は学術論文誌「Nature Communications」に発表された。

トランジスタのような既存の電子デバイスの性能は、究極的にはその構成材料(半導体など)の物性によって制約を受ける。半導体の場合、バンドギャップが存在するため、一定量の外部エネルギーをデバイスに与えないと電流が流れない。また、半導体の結晶中では、電子は常に原子と衝突しながら移動するため、その移動速度にも制約がある。

今回のメタ表面デバイスの設計イメージ(出所: UCSD)

研究チームは今回、電気伝導度に対する制約を取り除くため、電子デバイスの半導体チャネルを空間チャネル(真空またはガス)に置き換えることを考えた。自由電子が材料中から解放され、空間中を移動するようになれば、電気伝導度などのデバイス性能が大幅に向上すると考えられる。

しかし、材料中の電子を空間に解放するためには、100V以上の高電圧をかけるか、高出力のレーザーの照射する、あるいは500℃超の高温に置くといった条件が必要となる。いずれもマイクロ/ナノデバイスにおいては現実的ではない。

こうした極端な条件を使わずに材料中の電子を解放するために、研究チームは、メタマテリアルを利用することにした。デバイスはシリコンウェハ上に形成された「メタ表面」とよばれる人工的な共振表面で構成し、メタ表面とシリコンのあいだにシリコン酸化膜の層を挟んだ構造とした。メタ表面は、平行に配列された金の細片上に、マッシュルーム型の金ナノ構造を形成して構成した。

作製されたデバイスおよびメタ表面の電子顕微鏡像(出所: UCSD)

この金のメタ表面は、10V未満の低電圧を印加し、同時に低出力の赤外線レーザーを照射したとき、高強度の電界を有する点(ホットスポット)が発生するように設計されている。このホットスポットのエネルギーによって、材料中から電子が引き出され、空間中に解放される。

実験では、低電圧印加と低出力レーザー照射によって、デバイスの電気伝導度が1000%増加することが示された。研究チームのDan Sievenpiper教授は、メタ表面デバイスについて「すべての半導体デバイスを代替するわけではないが、高周波デバイスや高電圧デバイスといった特定用途では最適なアプローチになり得る」と説明する。

今回のメタ表面はコンセプト実証のために設計されたものであり、これから異なる種類のデバイス向けにさまざまなメタ表面を設計し、最適化していく必要があるという。メタマテリアルを利用したデバイスをどこまで小さくできるのか、またその性能限界はどこにあるのかといった理解を深めることも今後の課題となる。さらに、光化学、光触媒、新原理の太陽電池など、エレクトロニクス以外の分野への技術応用も探っていくとしている。