順天堂大学は11月11日、遺伝性難聴の50%以上の割合を占めるGJB2(コネキシン26)変異型難聴の原因となる内耳ギャップ結合形成細胞をiPS細胞から作る技術開発に成功したと発表した。
同成果は、順天堂大学医学部耳鼻咽喉科学講座 神谷和作准教授、福永一朗研究員らの研究グループによるもので、11月10日付けの米国科学誌「Stem Cell Reports」オンライン版に掲載された。
コネキシン(CX)26は、内耳の細胞間のイオン輸送を行うギャップ結合の構成要素のひとつであり、内耳リンパ液のイオン組成を保つことにより音の振動を神経活動へ変換する分子。その変異によりギャップ結合の構造が保てず、難聴となる。現時点では、同疾患に対する根本的な治療法や治療薬は存在していない。
同研究グループは今回、iPS細胞などの多能性幹細胞から神経などの外胚葉性組織を効率よく分化させるSFEBq法を改良し、外胚葉性組織のなかで神経組織とは異なる系統にある内耳組織、特に内耳蝸牛においてギャップ結合のネットワークを形成する内耳支持細胞群の作製を試みた。
具体的にはまず、iPS細胞を外胚葉に分化させるSFEBq法の過程で、CX26タンパク質が最も多く発現する三次元培養の条件を選抜。特にBMP4とTGFβ阻害剤を添加した培養法でCX26発現が顕著に増加した。この三次元培養にはほかの細胞も混在するため、CX26ギャップ結合が形成される細胞塊を分離し、独自に開発した蝸牛由来の細胞上で培養。同培養法により、内耳同様の巨大なギャップ結合を均一に形成する細胞シートの作製に成功した。
同細胞シートのギャップ結合は内耳と同様に細胞間で物質を輸送する能力を持ち、内耳の発達期にみられる自発的カルシウムシグナル伝搬という特殊な機能を示したという。さらに、疾患モデル細胞としての機能を確認するため、同研究グループはGjb2遺伝子を欠損させた難聴マウスのiPS細胞から内耳細胞を作製し、難聴発症の原因となるギャップ結合複合体が崩壊する様子を再現している。
同研究グループは、今回開発した内耳細胞について、GJB2変異型遺伝性難聴の疾患モデル細胞として細胞治療法の開発に活用でき、薬剤スクリーニングや新規薬剤の有効性・安全性評価への応用も可能であるとしている。また現在は、ヒトiPS細胞から内耳ギャップ結合形成細胞の作製を行っているところだという。