名古屋大学(名大)は11月9日、グラフェンの負の熱膨張率を利用して、炭素原子バッファ層を900℃から-196℃に急冷することによるグラフェン化に成功したと発表した。

同成果は、名古屋大学大学院工学研究科 乗松航助教、中国内モンゴル民族大学 包建峰講師、名古屋大学シンクロトロン光研究センター伊藤孝寛准教授、名古屋大学未来材料・システム研究所 楠美智子教授らの研究グループによるもので、11月8日付けの米国科学誌「Physical Review Letters」オンライン版に掲載された。

グラフェンは高キャリア移動度を持つことから、次世代半導体材料として期待されている。グラフェンのエレクトロニクス応用には、絶縁性基板上全面に単結晶の単層グラフェンを成長する必要がある。絶縁性基板である炭化ケイ素(SiC)ウェハ全面に均一な単結晶単層グラフェンを形成できる「SiC熱分解法」と呼ばれる方法では、SiCを不活性ガス雰囲気中で加熱することでSi原子が昇華し、表面にグラフェンとほぼ同じ構造を持つバッファ層と呼ばれる炭素原子層が形成される。しかし、バッファ層中の炭素原子は基板と結合を残しており、バッファ層上にグラフェンを作製すると、グラフェン中の電子がバッファ層中の原子の熱振動により散乱され、温度が高いほど移動度が低下するという問題がある。

グラフェンは、負の熱膨張係数を持つため、加熱すると収縮し、冷却すると膨張することが知られている。一方で、SiCは正の熱膨張係数を持つため、SiC上に形成したグラフェンとほとんど同じ構造を持つバッファ層を冷却すると、バッファ層は膨張し、SiCは収縮すると考えられる。同研究グループは今回、急冷処理を施しこの変化を急激に起こすことで、バッファ層とSiCの結合が物理的に切断され、バッファ層がグラフェン化することを期待し、900℃に加熱したバッファ層試料を-196℃の液体窒素中に投入して急冷した。

この結果、バッファ層をグラフェン化することに成功。得られたグラフェンは5×5mm2の基板全体にわたって均一な単層グラフェンであり、正孔伝導を示すことがわかった。また、熱振動による電子の散乱が劇的に低減されていることも明らかになった。

類似した効果を得るためには従来、爆発性のある高純度水素ガス中で600℃以上に加熱する必要があり、危険を伴うものだったというが、同研究グループによると、今回の技術を用いることで、そのような危険を生じることなく温度上昇に伴う移動度の低下を制御することが可能であるとしている。なお、同技術は名古屋大学から特許出願・公開済みであるとのこと。

バッファ層の急冷によるグラフェン化