基礎生物学研究所などは11月8日、アサガオの全ゲノム配列をほぼ完全に解読することに成功したと発表した。

同成果は、基礎生物学研究所 星野敦助教、慶應義塾大学理工学部 榊原康文教授、九州大学大学院理学研究院 仁田坂英二講師らの研究グループによるもので、11月8日付の英国科学誌「Nature Communications」に掲載された。

アサガオの野生型はもともと、青く小ぶりな花を咲かせる。色彩豊かで花も大きい観賞用のアサガオは、遺伝子のDNA配列が変化した突然変異によるものである。アサガオの遺伝学は、数多くの突然変異体があるという恩恵のもと日本国内で精力的に行わており、現在1000を超える突然変異体が九州大学で保存されている。こうしたなか、2010年秋より朝顔の全ゲノムDNA配列を解読する共同研究がスタートした。

同研究グループは今回、東京古型標準型という実験系統のアサガオに対し、国立遺伝学研究所の第三世代シークエンサーを使って解読作業を実施。7億5000万塩基の長さがあるアサガオのゲノム配列を解読するには、装置で読み取った膨大な数のDNA配列を計算機でつなぎ合わせることが必要だが、今回、装置で解析した平均7000塩基対の長さをもつ750万本のDNA配列をつなぎ合わせ、全ゲノムの98%に相当する7億3500万塩基を3400本のDNA配列として得ることに成功した。染色体の末端など難読なDNA配列もうまく解読されており、ほぼ完全にアサガオのゲノムを解読したと考えられるという。

このゲノム配列を調べた結果、アサガオは約4万3000個の遺伝子をもっており、東京古型標準型とアフリカ系統のあいだで、3700カ所のDNA配列の違いがあることが明らかになった。同研究グループは、それらの位置関係を計算し、アサガオの1セット15本(2n=30)の染色体に対応する、15本の線上に3700のDNA配列を点状に並べた連鎖地図を作成した。

また、「渦変異」と「桔梗変異」の両方をもつアサガオは著しく小さくなり、「渦小人」と呼ばれる奇妙なかたちになることが知られているが、今回明らかとなった全ゲノム情報を利用して、「渦変異」の原因遺伝子の特定を試みた結果、渦変異では、ブラシノステロイドと呼ばれる植物ホルモンの合成にかかわる酵素の遺伝子に変異があることが判明。「桔梗変異」もブラシノステロイドの合成に関わる遺伝子であることが知られており、この2つの変異が重なることで「渦小人」の特異なかたちになることが明らかになった。

さらに、ゲノム配列に基づいて、アサガオとほかの生物との比較解析も可能となった。今回の研究でも、トマトのゲノム配列と比較することで、アサガオとトマトの祖先が75万年前に分かれたのち、それぞれの植物でゲノム全体が倍になる「全ゲノム重複」が起きたことがわかっているという。

左:全ゲノム解読を行ったアサガオの実験系統「東京古型標準型」 右:変化アサガオ「渦小人」