筑波大学は11月3日、睡眠・覚醒を制御する2つの遺伝子変異を発見したと発表した。
同成果は、筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構 船戸弘正教授、同機構長 柳沢正史教授らの研究グループによるもので、11月2日付けの英国科学誌「Nature」オンライン版に掲載された。
睡眠・覚醒のスイッチをどちらに傾かせるかを決める要因や、1日の睡眠量を規定しているメカニズムなど、睡眠覚醒制御の根本原理はいまだ明らかになっていない。
今回、同研究グループは、具体的な作業仮説を置かずランダムな突然変異を入れた多数のマウスをスクリーニングする「フォワード・ジェネティクス」を採用。覚醒時間が顕著に減少するSleepy変異家系と、レム睡眠が顕著に減少するDreamless変異家系を樹立し、Sleepy変異マウスではSik3遺伝子変異、Dreamless変異マウスではNalcn遺伝子変異があることをを見出した。
Sik3遺伝子がコードするタンパク質SIK3は、タンパク質リン酸化酵素で、中央部にプロテインキナーゼA認識部位があるが、Sik3遺伝子変異ではこの認識部位が欠損していたという。このSIK3プロテインキナーゼA認識部位は、ショウジョウバエや線虫でも保存されているもので、今回これらの生物でもSIK3が睡眠様行動を制御していることが判明している。
また、断眠させて「眠気」が強まったマウスでは、断眠させていないマウスよりもSIK3のリン酸化酵素活性を制御するアミノ酸が強くリン酸化されていた。これは、野生型の動物においても、SIK3が「眠気」を表出する細胞内シグナル伝達経路の構成要素であることを示唆している。
一方、Nalcn遺伝子がコードするNALCNタンパク質は、細胞膜イオンチャネルであり、遺伝子変異によって膜貫通部位のアミノ酸がひとつ変化していることがわかった。Dreamless変異マウスの脳幹部を電気生理学的に詳しく調べたところ、深部中脳核という場所にあるニューロンの活動が有意に増加しており、この脳領域にはレム睡眠の終止をもたらすニューロンが含まれることから、Dreamless変異マウスにおけるレム睡眠の減少が説明できる。
同研究グループは今後、SIK3やNALCNタンパク質を手がかりとして、睡眠と覚醒の切り替えや、ノンレム睡眠とレム睡眠の切り替えに関わる細胞内シグナル伝達系、さらには「眠気」の分子メカニズムの全貌が明らかになることが期待されるとしている。