3D PDFの活用事例
前編では、3D PDFの仕組みとメリットについてご紹介した。今回はさまざまなシチュエーションにおいて3D PDFがどのように活用されているのか、事例をご紹介する。
事例1:製品設計・試作現場でのケース
・3Dの強みを活かしてパーツの取り付けミスを減らす
近年の市場環境では、高い品質が要求される一方、ライフサイクルがどんどん短くなっていっている。こうした状況に対し、製品・サービスを提供する側が3Dデータをいかにコミュニケーションツールとして、有効に活用していくかが効率化の面でポイントになっている。
まずはものづくり業界における製品設計・試作現場のケースを見ていこう。製品設計者が作り上げた設計・組立て図を社内ノウハウとして、どのように共有し、蓄積していくかについては"ものづくり業界"では常に付きまとっている問題である。3D CADはこうした問題を解決するツールの1つに挙げられるが、その活用方法にはまだまだ課題がある。
製品設計者は3D CADの情報を関係者と共有する際に、3D CADのデータを3Dのままアウトプットする手段がないため、図面を作成し関係者に共有しているのが一般的である。例えば、関係スタッフにおいて部品パーツの取り付けが正しいかどうか確認する場合には、一方向から見た図でしか確認することができず、スタッフの間で部品の取り付け方法が浸透するまでに時間を要してしまう事態が多々発生している。
この点において、大きな役割を果たすのが、アニメーション表示が可能な3D PDFである。部品の取り付けマニュアルに3Dのアニメーションを組み込むことができれば、部品パーツの取り付けを視覚的に把握でき、正しい取り付け方をスムーズに理解することができる。
製品組立の担当者においては、従来の文書では表現し難い組立工程の動作を関係スタッフに理解してもらうことが容易になり、組立ての手違いによるミスを防止する効果がある作業指示書として有効に活用することができる。
また、最近では海外の現地スタッフ向けに、翻訳が必要なくとも3Dマニュアルがあれば、アニメーションにより視覚で瞬時に伝えられるため、言語の壁を乗り越えるためのツールとしても3D PDFのニーズが高まってきている。
事例2:製品メンテナンスサービスのケース(品質・サービス)
・作業時間の短縮と作業の正確性の向上
3D PDFの効果は、設計・組立ての範囲にとどまらず、製品メンテナンスの確認作業においても効果を発揮する。文字の羅列では読み取りが難しい作業確認書を3Dのアニメーションでビジュアル化することで、作業の効率化が可能となる。
例えば、製品の種類によってはメンテナンス対象が旧機種と新機種とで混在しているケースがある。こうした場合、旧機種の保守については、スタッフ間でメンテナンススキルにバラツキがあることが多く、確認作業のミスや、修理に必要となるメンテナンス部品の誤発注が発生するリスクがある。そのため機種を問わず均質な作業レベルの維持が常に求められている。また製品メンテナンスを行うスタッフは製品の設置先でメンテナンスを行う場合もあり、その場合は短時間で正確に修理を行うことが要求される。
これらに対してメンテナンス手順をアニメーション表示することができる3D PDFを活用すればスタッフにおける資料確認時間の短縮や共通の情報をベースとした作業対応の均質化が期待できる。さらに3Dの形状を視覚で確認することができるため、対象となる修理部品が容易にわかり、誤発注を未然に防ぐなど作業の正確性が格段に向上するのである。
事例3:スタッフ教育のケース
・スキルレベルのバラツキをなくす
サービス品質レベルの向上は業界の垣根を越えた共通の課題である。品質レベルを確保するためには、タイムリーに最新の情報を共有し、スタッフ間の一時的な理解を高めるだけでなく、スタッフのスキルとして着実に伝承されていくことが重要である。
そのためには熟練者から新人に至るまで、一定のスキルレベルを担保するマニュアルの存在が欠かせない。特に複雑なスキルが求められる場面では、スタッフのスキルが属人化せずに、対応のバラツキをなくす必要がある。
高いスキルを求められるのは、お客様への応対を主とするサービス業でも同様である。お客様からの電話応対を専業とするコンタクトセンターでの例を見ていこう。
コンタクトセンターでは1人あたりのコール件数を向上させることをミッションとしている。コール内容は単純なものから難易度の高いものまで多岐に渡るが、1件1件のコール時間の短縮や応対品質の向上が求められている。さらにその内容は、電話やメールなどの文書で回答することが難しい場合も多い。
オペレーターの応対スキルを向上させる上で、研修は重要な役割を果たす。しかしオペレーターが在宅勤務であり、一同に集まって研修できないケースもある。その場合には、オペレーターが独自で判断し、対応していかなければならない。これらの手立てとして、3DPDFが有効に活用できるのである。
例えば、マニュアルが3Dアニメーションでビジュアル表示されていれば、パーツの種類が多い製品の問い合わせがあった場合でも各パーツ名称を言葉で確認するやり取りをせずとも、お客様との意思疎通がスムーズにでき、どの製品のどこの部分に関する問い合わせなのかを瞬時に把握することが可能になる。それにより、オペレーターの応対時間を短縮させることができるのである。
また在宅勤務の場合、研修を通じて製品に関する専門的な知識を得ていなくても、アニメーションを見て会話ができるため、お客様へ適切な説明が可能になってくるのである。
著者プロフィール
川島 徹
キヤノンITソリューションズ
エンジニアリングソリューション事業本部
3Dソリューション開発センター開発二部 部長
製造業におけるものづくり現場で、3D設計の導入からデータ活用/運用のプロセス改革/自動化まで、3D設計効率化支援サービスの推進に取り組む。現在は開発部門を管轄する立場から、3D PDFドキュメントで3Dデータの効果的な活用推進に向けたサービス支援を行っている。