10月12日から15日にかけて、東京ビッグサイトにおいて開催された「2016年国際航空宇宙展」。国内外から合わせて792もの航空・宇宙関連企業や団体が出展し、過去最大、日本最大規模での開催となった。
北海道を拠点に置くロケット会社「インターステラテクノロジズ(インターステラ)」のブースでは、今年中の打ち上げを目指してる高度100kmに届くロケット「モモ」の紹介や、実際に地上燃焼試験で使われたエンジンなどが展示された。
誰もが宇宙に行ける世界を目指すロケット会社「インターステラテクノロジズ」
北海道を拠点にロケット開発を行っているインターステラテクノロジズ(以下インターステラ、社長・CEO:稲川貴大氏)。宇宙機エンジニアや科学ジャーナリストらがロケット開発を目指して、2005年に立ち上げた「なつのロケット団」を発端として、徐々にメンバーや開発規模を増やし、2013年に堀江貴文氏が創業者となって立ち上げられたのが同社である。現在では、従業員数は10人を超えるほどにまで成長し、いよいよ宇宙に届く本格的なロケットの開発に挑むなど、日進月歩の歩みを続けている。
インターステラは、低コストなロケットを実現させ、誰もが当たり前のように宇宙に行ける世界を実現することを目指し、開発を続けている。まず今年中に高度100kmまで到達するサブオービタル(軌道に乗らない弾道飛行)ロケット「モモ」を打ち上げ、商業化を目指す。その次に小型の人工衛星打ち上げ用ロケットを開発し、やがて大型衛星や有人宇宙船の打ち上げ、さらにゆくゆくは、社名にもなっている恒星間飛行を実施したいという。
モモは、全長9.9m、全備質量は1000kg、液体酸素とエタノールを推進剤に使う推力12kNのロケット・エンジンをもつ単段式のロケット。打ち上げから約250秒で高度100kmに到達し、この前後の約260秒間、微小重力環境をつくりだすことができる。高度100kmに到達後はそのまま降下し、パラシュートを開いて海に着水する。
同社のWebサイト、Twitterをチェックしている方ならご存知のとおり、モモ用のロケット・エンジンの開発は、今年はじめに地上試験用のデモ用エンジンの燃焼試験には成功したものの、その後フライト用エンジンの燃焼試験で異常燃焼を起こすことになった。フライト用エンジンはデモ用と違って軽く造る必要があり、またより効率を上げるための設計変更が行われているものの、実際のところ原因はエンジンそのものではなく、点火方式にあったという。すでに本記事執筆中には新しい点火方式を使ったエンジン点火に成功したことが発表されている。
モモの開発、打ち上げが成功すれば、次は量産し、サブオービタル・ロケットの商業打ち上げを実施したいとのこと。需要としては微小重力環境を利用した実験のほか、ロケットの側面に企業名などを入れて、広告塔として販売することも考えているという。ちなみに同社は2013年11月11日に、製菓会社の江崎グリコのプロモーション企画として、「ポッキー」と「プリッツ」の形をしたロケットを打ち上げており、すでにその手の商業打ち上げの実績がある。
ちなみに「モモ」という名前は、果物の「桃」だけでなく、同社にもかかわっているメディア・アーティストの八谷和彦氏が開発したメール・ソフト「ポストペット」の「モモ」、そして高度100kmを目指すことから、「百」の読みのひとつ「もも」にも掛かっているという。ロケットの名前は毎回、社員らみんなで意見を出し合って決めているとのこと。
推力1トン級エンジン
ブースでは、モモに搭載される推力10kN級エンジンの、試作モデルのインジェクターとノズルが展示されていた。
インジェクターは、推進剤を燃焼室の中に噴射する部品で、多くの場合は「同軸型」、「衝突型」と呼ばれるものが使われる。どちらも噴射用の穴を無数に開ける必要があり、さらにその精度が狂うとエンジンの性能が落ちたり、損傷したりすることもあるため、ロケット・エンジンのなかで最も加工精度の必要な部品でもある。高い加工精度が必要ということは、造りづらく、コストもかかる。
そこでインターステラでは「ピントル型」と呼ばれるインジェクターを採用している。円盤から円筒が生えたような単純な形をしており、円筒の付け根にある円形の隙間からはエタノールが軸線方向に、円筒の先付近にある隙間からは液体酸素が放射状に出て、両者は衝突。それにより微粒化し、さらに推進剤が混合され、燃焼室で燃え上がる。ひと目見てわかるように構造が単純で、造りやすいなど、多くの利点がある。
ちなみに、展示されているものはあくまで試作モデルで、実際の打ち上げで使うインジェクターはさらに改良されているという(だからこそ展示が可能)。
このピントル型インジェクターという技術は、もともと米国のTRWという会社が開発したもので、アポロ計画で使われた月着陸船の月着陸用エンジンで初めて使用された。その後はほとんど使われることなく、半ば埋もれた技術となっていたが、1990年代にTRWの技術者トム・ミューラー氏によって掘り出され、ピントル型インジェクターを使った新型エンジンの開発を行った。その後、2002年にミューラー氏は、当時立ち上がったばかりのスペースXに加わり、同社のファルコン1やファルコン9ロケットのエンジン開発を指揮し、現在も辣腕をふるっている。
ノズルもまた、造りやすさに配慮されている。ロケット・エンジンは非常に高温になるため、何らかの方法で冷却しなければ壊れてしまう。そこで多くのエンジンでは再生冷却といって、エンジンの壁面に管を巻きつけるなどし、そこにエンジンに送り込まれる前の推進剤を流して"液冷"するという仕組みが採用されている。言うまでもなく、そのための配管を設けるのは難しい。
そこでインターステラではアブレーション方式を採用している。ノイズを見ると、内側に黒い部品があり、その周囲に木のような色の部品があり、さらにその外側に円筒形のアルミニウム合金の部品がある。この黒い部分はグラファイト(黒鉛炭素)、木目のような部品は繊維強化プラスチック(ガラスFRP)で、燃焼時の熱によって繊維強化プラスチックが自ら溶けながらエンジンを冷却すると共に、とくに高熱になるノズルはグラファイトで熱に耐えるという仕組みになっている。
こうした、徹底した造りやすさの追求により、ロケットを何百機、何千機と続々と量産し、量産効果によって低コスト化を実現しようというのがインターステラのロケットのコンセプトとなっている。それも、モモのような小型ロケットだけでなく、将来より大型のロケットを開発する場合でも、このコンセプトを続けるという。
ロケットの低コスト化というと、スペースXやブルー・オリジンが機体の再使用によって実現を目指しているが、同社の稲川氏は、「再使用によるコストダウンは可能なものの限界があり、それよりも簡素な構造で造りやすいロケットを大量生産するほうが、より大きなコストダウンが見込める」と語る。
150kg級エンジンのアブレータ・ノズル
ロケットの姿勢制御技術を実験するために開発された「LEAP」で、実際に使用されたエンジン。推力は150kg(1500N)で、上記のエンジンと同じようにアブレーション方式を採用している。
地上燃焼試験用コントローラ
ロケット・エンジンの地上燃焼試験で実際に使用されたコントローラ。右端に写っているのは爆発したエンジンのかけら。