10月12日から15日にかけて、東京ビッグサイトにおいて開催された「2016年国際航空宇宙展」。国内外から合わせて792もの航空・宇宙関連企業や団体が出展し、過去最大、日本最大規模での開催となった。

この中で、IHIはメタンを燃料とするロケット・エンジンのターボ・ポンプなどを展示、また三菱重工は開発中の国産旅客機「MRJ」の機内のモックアップなどを展示した。

IHI

有人・再使用機用の一軸式液体酸素/メタン・エンジンのターボ・ポンプ

有人・再使用機用の一軸式液体酸素/メタン・エンジンのターボ・ポンプ

同ターボ・ポンプを使うACE-42Rと、それを搭載するサブオービタル宇宙船の想像図

IHIは現在、エアバス・ディフェンス&スペースと共同で、液体酸素と液体メタンを推進剤とする「ACE-42R」ロケット・エンジンを開発しており、今回そのエンジンに使われるターボ・ポンプの模型が展示された。

ACE-42Rの推力は約412kN(42tf)で、ガス・ジェネレイター・サイクルを採用している。エアバスが開発中のサブオービタル宇宙船のエンジンに使うことが計画されており、ACE-42Rは約30回の再使用を想定しているという。

メタンには、低コストであることや、ケロシンよりも性能が良いこと、またススが出ないため再使用に向いていること、液体にしたときの温度が液体酸素と近いため、タンクの構造を簡略化できるといった特長がある。

IHIは以前、日本の中型ロケット「GX」の第2段用エンジンとして、液化天然ガスを燃料に使うロケット・エンジンを開発していた実績があり、GXが中止された後も、研究・開発を続けていた。こうした実績が評価され、2011年からエアバスとの契約に基づいて、ACE-42Rの開発を開始。2015年の夏に冷走試験(冷たい窒素などのガスを流す試験)に成功し、現在は2018年の熱走試験(実際のエンジンと同じように熱い燃焼ガスを流す試験)に向けて開発を続けているという。

このターボ・ポンプは一軸式であることが特長

このターボ・ポンプの特長は一軸式であることにある。模型を見るとわかるように、左から、液体酸素(LOX)ポンプと液体メタン(LCH4)ポンプ、そしてタービンが並んでいるが、それぞれ一本の軸でつながっている。

ロケット・エンジンの中には、燃料ポンプと酸化剤ポンプがそれぞれ分かれているものも多いが、その場合、もし燃料ポンプが故障で止まっても酸化剤ポンプは動き続けてしまい、エンジンに送られる燃料と酸化剤の比率が狂い、異常燃焼や爆発に至ることがある(原因は違うが、金星探査機「あかつき」のセラミック・スラスタが損傷したのも異常燃焼によるものと結論付けられている)。しかし一軸式であれば、どちらかのポンプに異常が発生すれば、強制的にもう一方のポンプも止まるため、少なくとも爆発には至らない。有人ロケットに搭載する以上は安全性が重要なため、一軸式が選ばれたのだという。

また、部品点数なども減らせるため、コストが下げられるほか、整備もしやすいため再使用にも向いている。

加えて、液体酸素とメタンでは、送り込むのに必要なポンプの回転数がほぼ同じであるため、一軸式にしやすいという理由もあるという。これが液体酸素と液体水素を使うエンジンの場合はそうはいかず、必要な回転数が大きく異なるため、一軸式は難しい。参考までに、H-IIAやH-IIBロケットが使う「LE-7A」では、液体酸素のポンプの回転数は毎分1万8300回転である一方、液体水素ポンプは毎分4万1900回転にもなる。

また展示はなかったものの、フランス国立宇宙研究センター(CNES)などと共同で、再使用ロケットに向けたメタン・エンジンの開発も別途行っているという。

3Dプリンタで造られたスラスタ

3Dプリンタで造られた推力4Nのスラスタ

3Dプリンタで造られた推力1Nのスラスタ

IHIでは、3Dプリンタで造られたスラスタ(人工衛星の姿勢を制御する際などに使う小型のロケット・エンジン)も展示されていた。

3Dプリンタの利点は、複雑な部品でも一体形成できる点にある。たとえば1Nスラスタの中央部分や、4Nスラスタの左側の部品を見ると、内部を細い管が通っているのが見えるが、こうした構造は従来なら別の部品を組み合わせるしかなかった。しかし3Dプリンタを使えば一気に、一体の部品として形成でき、また次々と量産することができる。これにより軽量化や低コスト化などが期待できる。

今回展示されたものは、推力4Nと1Nの非常に小さいもので、すでに燃焼試験にも成功。小型衛星への採用を見込んでいるという。またこの技術は大型スラスタへの応用も可能で、開発を進めているとのことである。

目下の課題は表面の処理だという。金属の3Dプリンタは、金属の粉を積み重ねるようにして造るため、どうしてもエンジンの表面が"ざらざら"になってしまう。そこを燃焼ガスが流れる際、その表面の凹凸の影響で流れが乱れ、性能が落ちるのだという。

三菱重工

三菱リージョナルジェット(MRJ)の機内モックアップ

MRJの模型

三菱重工のブースでは、開発中の旅客機「三菱リージョナルジェット」(MRJ)の模型や機内モックアップが展示された。

MRJは三菱航空機が開発中の小型旅客機(リージョナル・ジェット)で、2015年11月11日に試験機が初飛行に成功。現在も複数の試験機によって試験が行われており、今年9月には飛行試験機初号機が、試験のために米国へ送られている。

開発が順調に進めば、2018年から航空会社による運航が始まる予定となっている。

MRJの機内の様子

プレミアム・クラスの座席。窓の周囲がなだらかに抉られている

MRJは小型の旅客機ということもあり、内部は新幹線よりも狭いものの、たとえば円形の胴体の最大直径にあたる部分に肘が来るように座席を配置したり、窓の周囲を縁取るように抉るなどし、少しでも広く、快適な乗り心地になるような工夫がされている。

また、天井の照明は機首側を向いて設置されており、搭乗時には明るく、出迎えるように見え、一方で乗っているあいだは間接照明となって眩しくないようにといった、細かな工夫がいたるところに施されている。

座席の上にある照明やコール・ボタン

トイレ

座席は2-1の3席配列のプレミアム・クラスと、2-2の4席配列のエコノミー・クラスがある。プレミアム・クラスの座り心地の良さは言うまでもないが、エコノミー・クラスでも十分な快適さだった。

エコノミーの座席は反発があまりなく、座った瞬間は硬く感じたが、実際は最近の通勤電車の座席と同じように、この硬さのおかげで長時間座っても疲れにくくなっているのだという。座席幅はボーイング787などと変わらないサイズが確保されており、前席との間隔は、座る前は狭く感じたが、いざ座ってみるとそれほど窮屈には感じなかった。リージョナル・ジェットが想定している短時間の飛行であればまったく苦にならないのではないだろうか。

トイレも、見た目は狭いものの、専用の車椅子を使うことでそのまま入れるなど、バリアフリーにも配慮されている。

500Nセラミック・スラスタ

500Nセラミック・スラスタ

金星探査機「あかつき」の軌道投入用エンジンとして開発された推力500Nのセラミック・スラスタ。残念ながら、セラミック・スラスタそのものとは関係のない、配管のバルブで問題が起き、それによる異常燃焼によって損傷し、金星周回軌道への投入に失敗。2015年の再挑戦時にはこのエンジンに代わり、より小型の姿勢制御スラスタを使って投入されることになった。

しかし、セラミック・スラスタは本来優れた、そして日本の将来にとっては重要な技術でもある。通常、人工衛星のスラスタにはニオブ系合金という金属が使われる。正確には金属のみでは噴射ガスの熱に耐えられないため、ガラスやセラミックを吹き付け、コーティングを施している。しかし、それでも耐熱性に制限があり、また寿命や取扱性にも問題があった。また、日本にとっては特許の問題から海外から輸入するしかなく、入手性にも問題があった。

そこで、金属ではなく窒化ケイ素系セラミックスを使った「セラミック・スラスタ」の開発が行われることになった。セラミックを使う利点は、ニオブ系合金よりも高い熱に耐えられ、性能向上が期待できる。またニオブ系合金で必要な耐酸化コーティングも不要で、何より国産であるため入手しやすく、何か事故や問題が起きても、国内で十分な調査が行えるという利点もあった。

「あかつき」では残念な結果に終わったものの、現在JAXAが開発中の「小型月着陸実証機」(SLIM)に、改良したセラミック・スラスタが採用される予定となっている。