東北大学は10月25日、腎臓が障害をうけると発生する「酸化ストレス」が腎臓病を悪化させ、慢性腎臓病の発症・進行につながることを明らかにしたと発表した。
同成果は、東北大学東北メディカル・メガバンク機構地域医療支援部門 祢津昌広助教、東北大学大学院医学系研究科医化学分野 相馬友和研究員(研究当時、現 米国ノースウエスタン大学)、同酸素医学分野 鈴木教郎准教授、同医化学分野・東北メディカル・メガバンク機構長 山本雅之教授らの研究グループによるもので、10月24日付けの国際腎臓学会誌「Kidney International」オンライン版に掲載された。
敗血症、大出血、心臓病などの重い病気や、血管の手術により、腎臓に入る血液の量が乱高下した結果、急性腎障害になることが知られている。同障害に対して適切な治療を施すことにより、一時的に腎臓のはたらきが改善されるが、高血圧や糖尿病といった生活習慣病の影響が存在する場合、障害が徐々に進行し、最終的には慢性腎臓病と診断されることが少なくないことがわかっている。
急性腎障害では、活性酸素種などの細胞を損傷させる分子が蓄積した「酸化ストレス」が大量に発生し、腎臓を徐々に障害することが指摘されている一方で、急性腎障害の治療では、酸化ストレスを消滅させることが難しいと考えられている。同研究グループは今回、急性腎障害の段階で酸化ストレスを減らすことで慢性腎臓病への進行が予防できると考え、マウスを用いた実験を実施した。
マウスに手術を施し急性腎障害を起こすと、2週間で慢性腎臓病のような病態を生じることが知られている。同研究グループは、酸化ストレスを消去する能力の高い遺伝子改変マウスを作出。同マウスでは同様の手術を施しても、慢性腎臓病の病態が軽度であることを発見した。
また、急性腎障害を生じたマウスに酸化ストレスへの抵抗性を高める薬剤を1日目から5日目のあいだに飲ませることで、2週間後の慢性腎臓病への進行が抑えられることがわかった。一方、急性腎障害を起こしてから7日目以降に薬を飲ませても、慢性腎臓病の病態は改善されなかったという。したがって、急性腎障害となった後の早い時期に、酸化ストレスへの抵抗性を高めることによって、慢性腎臓病への進行を抑制できることが示されたといえる。
今回の研究でマウスに投与された薬剤と同様の薬剤は、すでに腎臓病に対する臨床試験が行われており、同研究グループは今回の成果について、慢性腎臓病の発症・進行を防ぐための新薬開発に大きく貢献すると考えられるとしている。