固体の水(H2O)である氷には結晶構造の異なるさまざまな種類があることが知られている。低温高圧条件下で現れるさまざまな氷の研究が行われ、これまでに少なくとも17種類の氷が存在することがわかっている。
これらの氷の結晶のうちのいくつかは、結晶構造に関して、二酸化ケイ素(SiO2)と類似性があることが知られている。たとえば、どちらも二酸化ケイ素の一種である鉱物トリジマイト(鱗ケイ石)とクリストバライトには、それらに対応した氷の結晶構造が存在する。
同様に、二酸化ケイ素の一種である石英(水晶)に結晶構造が類似した氷が存在することも、理論的には数十年前から予想されていた。しかし、実験室内で実際にこれを作り出すのは難しく、最近になってカーネギー研究所らのチームが初めて実物の作製に成功していた。「C0相」と呼ばれるこの新しい氷は、圧力400MPa(大気圧の約4000倍)、温度280K(6.85℃)の条件で現れる。研究チームは今回、C0相の氷について、回折・分光装置を用いた詳細な構造解析を行った。
C0相の氷は、組成式(H2O)2H2で表される分子3組によって結晶の単位格子が構成されている。水晶の結晶構造には、らせん状の配列が見られ、その回転方向の違いによって「右水晶」「左水晶」と分類されるが、C0相の氷の結晶にも同様のらせん構造があることが明らかになった。この相の氷の結晶では、水分子がらせん状につながってチューブのような形を作っており、チューブ内には渦を巻いた無秩序相の水素分子が詰まっているという。
チューブの内部には重量比5.3%という大量の水素分子が収容される。さらにチューブ内を水素分子が移動することもできる。こうした特性は、C0相の氷が、将来的に再生可能エネルギー用の水素貯蔵材料として利用できる可能性を示唆している。
特殊な氷の結晶を作り出すために設定される実験室内の低温高圧条件は、太陽系に存在する氷の惑星などの環境と似通っていると考えられる。地球上では二酸化ケイ素がありふれた物質であるように、特殊な氷の結晶も、氷の惑星上ではありふれた物質の状態である可能性がある。今回の研究は、こうした観点から、宇宙天文分野にも新たな知見を提供しているといえる。