米国オークリッジ国立研究所(ORNL)の研究チームは、常温で二酸化炭素をエタノールに直接変換できるナノ触媒を開発した。ナノ触媒は炭素(スパイク状のグラフェン)と銅ナノ粒子で構成されており、白金などのレアメタルは使用していないため、低コスト化して産業用途に応用できる可能性があるという。

二酸化炭素をエタノールに直接変換できるナノ触媒の電子顕微鏡像。スパイク状にグラフェンに球状の銅ナノ粒子が組み込まれている (出所:オークリッジ国立研究所)

温室効果ガスである二酸化炭素は燃焼反応の副生成物として生み出されるが、これを電気化学的に還元できれば有用な燃料を作り出す材料とすることができる。研究チームは、ナノ触媒を利用した二酸化炭素の還元について研究する過程で、二酸化炭素が高い効率でエタノールに直接変換される現象を意図せずして偶然に発見したという。

同触媒は白金など高価なレアメタルを使っていないことから、産業用途で大規模に応用できる可能性がある。研究チームは、その応用例として、太陽光発電や風力発電など出力の安定しない自然エネルギーの有効利用を挙げる。これらの電力源から需要を上回る過剰な電力が供給されたとき、余剰電力をナノ触媒による電気化学反応に利用すれば、余分な電気エネルギーをエタノールなどの化学燃料に変換して貯蔵することが可能になる。

論文誌「ChemistrySELECT」に掲載された論文によると、今回開発されたナノ触媒は二次元の炭素薄膜であるグラフェンを数層積層し、窒素原子を添加して、先端の尖ったスパイク形状(長さ50nm程度)にしたカーボンナノスパイク(CNS)の上に、銅ナノ粒子を付着させた構造となっている。銅ナノ粒子は硫酸銅(II)溶液から生成し、界面活性剤などは使わずCNS上に直接付着する。銅ナノ粒子の粒径は30~100nmである。CNSの代わりにガラス状炭素を用いた場合には銅の粒径が大きくなることから、CNS自体が銅ナノ粒子の生成を促していると考えられる。

今回の研究では、このナノ触媒による常温での触媒反応により、水に溶けた二酸化炭素がファラデー効率63%、選択率84%という高さでエタノールに直接変換されることが実験で示された。通常、この種の電気化学的な還元反応では、微量の生成物が複数種混合した状態で得られるだけだという。論文の筆頭執筆者であるAdam Rondinone氏は「単一の触媒で二酸化炭素をエタノールに直接変換するのは極めて難しく、驚くべき結果だ」と話している。

この触媒反応のメカニズムはよく分かっていないが、CNSのスパイク構造の先端部分が二酸化炭素-エタノール変換を可能にする大きな反応部位を与えていると考えられる。また、CNS単体ではこのような高効率の変換反応は起こらないことから、CNSと銅ナノ粒子との間で何らかの相乗効果が起こっているとみられ、詳細な反応メカニズムの解明が今後の研究課題であるとする。