アークレイは10月17日、東京大学生産技術研究所 藤井輝夫教授、金秀炫助教らとの共同研究で、高純度濃縮システムを使用し、血液中を流れるごく微量のがん細胞を遺伝子解析する新たな手法を構築したと発表した。
血液中を循環するがん細胞(circulating tumor cell:CTC)は、末梢血中にごく微量存在し、原発性腫瘍から血管に入り込み、体内を循環し転移を引き起こすと考えられている。血液検査でCTCを検出・解析することができれば、がんの早期発見や転移の発見につなげる手法の構築が期待できるが、CTCは血液10mL中に数個~数十個程度しか存在せず、正確性や再現性において検出は技術的に極めて困難とされてきた。
また、臨床用途としてCTCを高感度に検出し、遺伝子を解析をするためには、「処理後のサンプル中に大量の血球細胞が残る」、「特定のマーカーを持ったCTCしか回収できない」、「作業日数がかかるうえその工程にも手間がかかる」といったような課題があった。
今回、同研究グループが開発したCTC分析システムは、これらの課題の克服に向けたもので、1.全血をフィルタリングし、フィルター上に捕捉した細胞を免疫染色・磁気標識、2.フィルターから回収した細胞懸濁液の中に残存した白血球を、磁気分離により除去し純化、3.純化された細胞を、誘電泳動を用いてマイクロ流体濃縮デバイス内の観察チャンバーに濃縮し蛍光顕微鏡観察、4.チャンバーに濃縮した細胞を全量回収し、核酸精製なしで遺伝子解析装置アイデンシーにより遺伝子変異を解析する、という4つのステップから構成されている。
同社は同システムの実証のため、培養がん細胞株を添加した全血を使用し、添加細胞の遺伝子変異の検出を行ったところ、8mLの全血中に添加した各培養がん細胞株が持つ遺伝子変異の検出に成功。なお、この手法の検出感度は、1cell/mLであり、同濃度でのがん細胞の検出および遺伝子変異検出の成功率は10回中10回であったという。また、この際の残存白血球数は平均87個であり、全血の処理開始から9時間以内に、遺伝子変異の検出およびがん細胞数と残存白血球数それぞれの計数結果が得られたとしている。
同システムは特定のマーカーを持ったCTCを選別せず、不要な血球細胞のみを除去する手法であり、さまざまなタイプのCTCの遺伝子変異の解析が可能。表現型が変化したCTCに対しても有効であると考えられるという。