理化学研究所(理研)は10月13日、細胞分裂期にみられる凝縮した棒状の染色体の形と分離のダイナミクスを関係付ける方程式を見出したと発表した。
同成果は、理研 理論科学研究推進グループ階層縦断型理論生物学研究チーム 境祐二特別研究員、望月理論生物研究室 立川正志研究員、望月敦史主任研究員らの研究グループによるもので、10月6日付けの米国科学誌「Physical Review E」オンライン版に掲載された。
染色体は、細胞周期の間期においては糸状のクロマチン繊維の状態で細胞核内に広がり互いに絡まり合った状態にあるが、分裂期に入ると、クロマチン繊維が凝縮して棒状の染色体になることで、絡まりがほどけて互いに分離する。この過程にどのようなダイナミクスが働いているかは、これまで明らかになっていなかった。また、棒状の各染色体の長さはさまざまであるにも関わらず、同種の生物ではその太さはすべての染色体で一定に保たれており、発生初期の染色体は成体よりも細長い形をしているが、この理由もわかっていなかった。
同研究グループは今回、分子動力学計算を用いて、さまざまな形に凝縮した糸状高分子が互いに絡まり合った状態から、それがほどけて互いに分離するまでの様子についてシミュレーションを実施。染色体分離のダイナミクスの物理的側面を捉えるために、染色体同士の絡まり合いをほどくタンパク質「トポイソメラーゼ」と、染色体を凝縮させ形作るタンパク質複合体「コンデンシン」の機能を、近似的にモデルに組み込んで計算を行った。
この結果、棒状高分子の分離時間は、その太さの約3乗に比例する一方で、その長さにはまったく依存しないことが明らかになった。分離のダイナミクスは棒状高分子の長軸に垂直な面で起こるため、長軸に沿った長さの影響を受けないことがこの依存性の理由であると同研究グループは考察している。
さらに、同研究グループはシミュレーションの結果を理論的に説明し、凝縮した高分子の形と分離時間を関係付ける方程式を導出。この結果から、棒状の各染色体の長さがさまざまなのに対して太さが一定であるのは、分離時間を一定に保つためであり、細胞分裂が活発な発生初期の染色体が細長い形なのは、太さを小さくすることで分離時間を短くしているためであることが考えられるという。
同研究グループは今回の成果について、染色体の凝縮と分離という生命現象は互いに関係があり、それらは物理学の視点から捉えられる可能性があることを示したものであるとしている。