10月7~9日の期間で鈴鹿サーキットにおいて開催されたF1日本グランプリ。11チームのマシンがそれぞれ鎬を削る中、F1チームのスクーデリア・トロ・ロッソ(以下、トロ・ロッソ)を支えている企業の1つがアクロニスだ。今回、同社の創業者兼CEO セルゲイ・ベロウゾフ氏が来日し、同社の戦略やF1への想いについて説明を行ったので、その模様をお届けする。

鈴鹿サーキットのメインストレート(手前)とピットブル(奥)

現在、アクロニスの従業員数は800人、うち400人はエンジニアであり、150カ国で事業を手がけており、「Acronis Backup」「Acronis True image」「Acronis Access」「Acronis Disaster Recovery(DR)」などの主要製品を展開している。

ベロウゾフ氏によると、近年ではテクノロジーが急速に変化し、IoTやロボット工学、ドローン、自動運転、3Dプリント、FinTech、AI、ブロックチェーンなど、さまざまな形態で進化が進んでいるという。こうしたテクノロジーのトレンドは、それぞれ特徴があるが、共通点として物理的な世界からデジタルの世界への移行が進んでいることなどを同氏は挙げている。このような背景から、今後は物理的な世界でデータが必須となり、データ量の増加に伴い、データを保護するテクノロジーも重要となる。

アクロニス 創業者兼CEOのセルゲイ・ベロウゾフ氏

そのようなトレンドをふまえ同氏は「われわれはバックアップだけでなく、クラウドのストレージサービスやDR、ファイルサービスなどを展開している。また、データプロテクションは、基本的にハイブリッドクラウドのアーキテクチャをベースとし、どのようなデータプロテクション、ワークロード、ストレージ、リカバリにも対応が可能だ。すべての製品は『高速』ということにフォーカスし、このことはトロ・ロッソとのスポンサーシップにもつながっている」と胸を張る。

トロ・ロッソをスポンサーシップに選んだ理由について同氏は「車が好きであり、トロ・ロッソは車体は、われわれのイメージカラーに合っている。また、2つのF1チームを有するレッドブルが母体であり、自動車メーカーではない同社の取り組みも気に入っており、チームの雰囲気や方針がわれわれと合致しているとも感じた」と経緯を説明した。

アクロニスのロゴが入るトロ・ロッソのマシン

また「F1はモータースポーツの中でNo.1で、常にイノベーションを達成するテクノロジーがあり、われわれもコンシューマ向け、中小企業、エンタープライズ向けのストレージソフトウェア、データプロテクションの分野でNo.1でありたいと考えている。F1はマシン技術のポテンシャルを最大限に活用し、限界まで突き詰める特性があるため、われわれの技術がどれだけ活かされるのか試される現場だ」ともベロウゾフ氏は語る。

将来的にはAIや機械学習の技術を活用したソリューション展開も

現在、アクロニスではトロ・ロッソにファイル共有やストレージ技術を提供している。具体的には車体に搭載した1000個程度のセンサで車体をモニタリングし、温度やスピード、各パーツの摩耗、空力などのデータを取得する。チームはデータを使い、ドライバー向けのアドバイスや、より良いマシンを作るために活用しているという。

鈴鹿サーキットのGPエントランス

最終コーナーに差し掛かるトロ・ロッソのマシン

同氏は「トロ・ロッソがITに寄せる信頼は高いものがあり、現在はアクロニスの製品を使用している。トロ・ロッソが1日に生成するデータ量は3~5TB規模で、それぞれのレースのテレメトリ(遠隔計測機器)のデータ量は1TB規模だ。仮に1日分のデータが失われた場合、2~3秒程度のマシン速度のスローダウンにつながりかねない。そのため、チームのデータは必ず守るほか、確実に提供しなければならない。ただ単に技術を提供するだけでなく、真のパートナーシップとしてF1のチームに貢献していきたい」と意気込みを語った。

最後に「データ保護は人間の基本的なニーズの1つになりつつあり、われわれは『People』『Process』『Product』の3つのPにフォーカスする。そして新製品、パートナーにおける製品販売にも注力していく。また、来年以降はAIや機械学習などの技術をベースとしたソリューションの開発なども検討している。現状ではデータの重要度で高速、低速の区分けができるような初期的な取り組みを行っている」と今後の事業展開について言及した。なお、アクロニス・ジャパンでは11月にオフィスの移転を予定し、社員数を倍増させる方針だ。

ベロウゾフ氏(右)とアクロニス Chief Marketing Officer and SVP Channel and Cloud Strategyのジョン・ザニ氏