電通とクラウディアン、スマートインサイト、Quanta Cloud Technology Japanの4社は今年の4月、屋外広告実証実験プロジェクト(OOHプロジェクト)を発足させ、ディープ・ラーニングを利用する屋外広告の実証実験に取り組むと発表したが、10月13日、クラウディアンはその結果を公表し、実験に成功したと発表した。
実証実験は、屋外設置のビデオカメラの映像からリアルタイムに走行車両の車種などを判別し、道路沿いのデジタル・サイネージにその車両をターゲットとする広告を表示するというもの。
実際の実験は9月10日と17日の両日、高速道路を走行する車種をAI(人工知能)で自動判別し、六本木のビル屋上に設置されたビルボードに車種別の広告配信を行った。
具体的には、ビルボード側に設置されたカメラからズームし、約300m先を走行する車両を撮影。この映像を使って、0.5秒で車両のメーカー、車種、年式を認識。その後、広告対象車両である判別すると広告の切り替え信号を送出し、ビルボードの広告を切り替える。そして、10秒後に終了の信号を送出するというもの。
通常はコンテンツとして天気予報などが表示されているが、対象車両が来ると、割り込みコンテンツを表示する。
以下が、実験の様子を撮影した動画だ。
実験にあたっては、300車種以上の自動車を対象に、1車種あたり約5000枚の画像を使いディープラーニング(深層学習)させたという。
実際に広告を切リ変えるかどうかは、エッジ側のディープ・ラーニングの実行環境が出力する車両の検出率をベースに、設定した「しきい値」を超えたがどうかで判定する。
実験では、「しきい値」を96%に設定すると正答率は100%、90%に設定すると正答率は92%、80%に設定すると正答率は91%になったという。
実験結果を踏まえ、クラウディアン 代表取締役社長 太田洋氏は、「メーカー、車種、年式までを1秒以内に認識し、道路広告でターゲティングが可能なことがわかった」と、実験の成功をアピール。
電通のアウト・オブ・ホーム・メディア局 業務統括部 部長の神内一郎氏も、「今回のプロジェクトでは、オーディエンスを図る物理的な世界のcookieとして利用でき、時間帯別のメディア価値を計測できる」と述べた。同氏は、今回のシステムの広告的価値については、「広告には大きく2つの価値がある。1つは知らない人に知らせる部分だが、この部分は従来の広告価値と変わらない。もう1つのターゲットの興味に応じて訴求する部分に関しては、システムは広告を何回切り替えたかを認識しているので、1クリックあたりのコストと同様に考えられる」と述べた。
一方、太田氏は今後の課題について、商用化に向けて精度のさらなる向上が必要なほか、ディープラーニングのトレーニングや新車への対応、天候などへの影響の検証、カメラの検討(環境、望遠性能、揺れ振動抑制機能など)、ビジネスモデルの検討などが必要だとした。
屋外広告実証実験プロジェクトでは、今後、大規模な屋外ビルボード広告だけでなく、商業ビル、ショッピングモール、アウトレットの駐車場に設置されるディスプレイへの広告配信も計画。また、時間帯別・車種別交通量や走行速度も自動的に計測し、数値化することが可能になるため、 従来の人手による計測データと異なり、常時正確な交通量の把握ができるようになり、道路監視やターミナルの混雑状況把握など、汎用的な交通量調査などへの応用も期待できるという。
クラウディアンはSoftware Definedのオブジェクトストレージ製品を提供しているが、太田氏は今回、プロジェクトに参加した理由を、「ビッグデータやIoTに対するニーズが高まる中、画像処理においては、必要な写真を探し出すのは大変だ。ディープラーニングを使えば、ディスク内の保管場所を特定し、ソートすれば、すぐに使える状態にできる。今回の実証実験のシステムは、リファレンスモデルとして開発しているが、今後はディープラーニングを開発している企業と協業し、ストレージと組み合わせて展開したい」と語った。