神戸大学は10月6日、遺伝性感音難聴の原因遺伝子変異を同定し、難聴患者の病態を再現した遺伝子操作マウスの作製に成功したと発表した。
同成果は、神戸大学バイオシグナル総合研究センター 上山健彦准教授、京都大学大学院医学研究科耳鼻咽喉科・頭頸部外科 北尻真一郎研究員らの研究グループによるもので、10月5日付の科学誌「EMBO Molecular Medicine」に掲載された。
感音難聴とは、内耳から聴覚中枢に至る部位の病変により起こる聴覚障害。内耳が微細で巧妙な感覚器であるうえ、生体外での研究が困難であることから、その治療法開発は進んでいない。
また、遺伝子性感音難聴の原因となると目される遺伝子は、現在100種類程度報告されているが、それらの遺伝子にどのような異常が発生し、それがどのように難聴を引き起こしているのかについては、解明されていない点が多くある。
今回、同研究グループは、国内の原因不明の難聴患者1120例を対象に、次世代シークエンサーを用いたエキソーム解析を実施。2家系で現在までに報告のない遺伝子の変異を発見した。これは、聴毛や内耳有毛細胞の形成・維持に重要な働きをする直鎖状アクチン繊維の伸長に関与する分子DIA1(DIAPH1)の遺伝子内に見つかったもの。同変異によって生じるDIA1の変異体タンパク質が、刺激のない状態でも細胞骨格のひとつであるアクチン繊維を伸長させてしまう活性化型変異体であることを、生化学的、分子生物学的、1分子解析手法などを駆使して証明した。
さらに、DIA1変異タンパク質を発現するよう遺伝子操作したマウスを作製。同モデルマウスが「若くして高音域から始まり、加齢に伴い難聴が進行し、最終的には全音域に及ぶ進行性難聴を呈する」という、この遺伝性感音難聴患者の病態を再現することを確認した。
現在までに報告されている遺伝性感音難聴の原因遺伝子の約1/3は、今回同定した遺伝子と同様に、アクチンに関連して機能する分子を発現させる遺伝子であるため、同研究グループは、今回作製したマウスを内耳有毛細胞内のアクチン機能を変化させる化合物を見出すツールとして用いることで、常染色体優性遺伝性感音難聴1型(DFNA1)だけでなく、アクチン分子に関与して起こる遺伝性感音難聴の新規治療薬の開発に繋がる可能があるとしている。