東京工業大学(東工大)は10月3日、同大学 科学技術創成研究院 大隅良典 栄誉教授がノーベル医学・生理学賞を受賞したことを受けて、記者会見を行った。

東京工業大学 大隅良典栄誉教授(中央)、三島良直学長(左)、安藤真研究担当理事・副学長(右)

大隅栄誉教授の研究テーマであるオートファジーについての詳細は、今年8月に掲載した弊誌のインタビュー記事をご覧いただきたい。

以下、会見での大隅栄誉教授の受賞挨拶全文を掲載する。

大隅良典 栄誉教授 ノーベル賞受賞会見挨拶

本日、夕刻にノーベル委員会から受賞のお知らせをいただきました。もちろん、研究者としてはこの上なき名誉なことだと思っています。ここ数年、思いもかけずいろいろな賞をいただいていますが、ノーベル賞には格別の重さを感じています。ノーベル賞は、少年時代にはまさしく夢だったように記憶しておりますが、実際に研究生活に入ってからは、ノーベル賞は私の意識のまったく外にありました。私は、自分の私的な興味にもとづいて、生命の基本単位である細胞がいかに機能的な存在であるかということに興味を持ち、酵母という小さい細胞に長年いくつかの問いを持っていました。

私は、人がやらないことをやろうという思いから、酵母の液胞の研究を始めました。1988年、細胞の中での分解を果たす液胞の役割というものに興味を持ちまして、そういった研究を東大教養学部のたった1人の研究室に移ったときに始めることになり、それ以降28年にわたってオートファジーの研究に携わってきました。

オートファジーという言葉は耳慣れない言葉かと思いますが、酵母が飢餓に陥ると、自分自身のタンパク質の分解を始めます。この現象を光学顕微鏡で捉えることができたのが、私の研究の出発点です。その過程を馬場美鈴さんと電子顕微鏡で解析することで、それが動物細胞で知られていたオートファジーの現象とまったく同一の過程だということがわかりました。酵母は遺伝学的な解析にとても優れた生物なので、さっそく私たちはオートファジーに必須の遺伝子を探すことを始めました。

幸いにも塚田美樹さんという人の努力で、わりに短時間でオートファジーに必須なたくさんの遺伝子を特定することができました。これらの遺伝子は、オートファジーの膜現象に基本的な分子装置であるということが明らかになりました。また、これらの遺伝子は酵母のみならず、植物細胞やヒトなどの動物細胞にも広く保存されているということがわかり、オートファジーの研究は、大きな変化を経ることになりました。その後は、さまざまな細胞でオートファジーがどのような機能をしているかということが世界中のたくさんの研究者によって解析され、今日に至っています。

私はずっと、酵母という材料でオートファジーの研究をしてきました。このような基礎的な研究が、今日のオートファジーの研究の大きなきっかけになったということであれば、基礎生物学者としてこの上ない幸せなことだと思っています。

会見中、安倍総理からの電話を受ける大隅栄誉教授

もちろん、生物学の研究というのは1人でなせるものではありません。27年間、私の研究室で、たゆまぬ努力をしてくれた大学院生、ポスドク、そしてスタッフの方々の努力の賜物だと思っています。また、酵母から動物細胞のオートファジーへ転換してくれた水島昇、吉森保の両氏……現在、動物細胞におけるオートファジーで世界を牽引している2人と、今日の栄誉を分かちあいたいと思っています。

オートファジーは、タンパク質の分解というものすごく基本的な性質なので、今後いろんな現象に関わっているということが明らかになってくれることを、私も期待しています。

ひとつだけ強調しておきたいことは、私がこの研究をはじめたときは、オートファジーが必ずがんにつながるとか、人間の寿命の問題につながると確信していたわけではありません。基礎的な研究というのはこういう風に展開していくものだということを、ぜひ理解していただければと思います。基礎科学の重要性を、もう一度強調しておきたいと思っています。

研究の場を与えていただきました東京大学教養学部、理学部、基礎生物学研究所、東京工業大学には厚く御礼を申し上げます。私のこれまでの研究は、ほとんどが文科省の支援をいただいて行ったものです。感謝申し上げます。またこの間、私の研究を与えていただいた2人の恩師、今年5月に亡くなられた今堀和友先生と、安楽泰宏先生に心から感謝の意を申し上げたいと思います。

最後に、戦後の非常に大変な時代から常に温かく見守ってくれた、今は亡き両親にまずは受賞の報告をしたいと思います。また私の家族、とりわけ、折に触れて私を支えてくれた妻に感謝したいと思います。ありがとうございました。