東京大学(東大)は9月30日、学習する時刻によって記憶しやすさが大きく異なることをマウスで見出したと発表した。
同成果は、東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻 清水貴美子助教、深田吉孝教授らの研究グループによるもので、9月30日付の英国科学誌「Nature Communications」に掲載された。
これまで、1日のうちの時刻によって記憶のしやすさに違いがあるのではないかと考えられていたが、それが体内時計によって制御されているのか、また、どのような仕組みで記憶しやすさが変化するのかについてはわかっていなかった。
同研究グループは今回、マウスを用いて1日のさまざまな時刻に新奇物体認識テストを行い、学習から24時間後のテストで長期記憶を測定した。その結果、学習する時刻によって記憶のしやすさが大きく異なり、マウスの活動期の前半(CT16)に記憶のしやすさが最高に達することを見出した。
このような長期記憶の日内リズムは、体内時計の発振中枢である視床下部の視交叉上核を破壊すると消失した。したがって、記憶リズムは視交叉上核の体内時計(海馬時計)に支配されているといえる。なお、記憶形成に重要なのは、学習のタイミングであり、テストのタイミングには影響を受けない。また8分間の短期記憶では1日を通して一定の記憶力を示したという。
同研究グループはこれまでに、海馬の長期記憶にはSCOPというタンパク質が重要な役割を果たすことを明らかにしているが、今回、海馬の細胞膜に存在するSCOP量が、活動期の前半(CT16)に最大になり、SCOPと結合しているK-Rasも同じ時刻にピークを示し、これらが長期記憶リズムのピークと一致することを見出した。なお、海馬のScop遺伝子をノックダウンすると、長期記憶できるはずの時刻、つまり活動期の前半でも記憶できなくなる。
ヒトでも記憶のしやすさには、日内変化があることは知られており、今回のメカニズムはヒトの海馬にもあてはまると考えられる。ただし、長期記憶のピークが活動期の前半だとすれば、夜行性のマウスに対して昼行性のヒトでは、長期記憶の学習効果のピークは昼の前半(午前中)にあたる。同研究グループは、このような長期記憶の日内リズムを利用して、より効率よく学習効果を上げることが期待されると説明している。