インタラクティブコンテンツを中心とした体験を提供する福岡のスタートアップ・しくみデザイン。前編では、これまでに手掛けた事業や、「KAGURA」開発のきっかけについてお聞きした。後編では、米クラウドファンディング・Kickstarterでサクセスしたばかりの楽器アプリ「KAGURA」の最新動向と代表・中村俊介氏が目指す今後の展開について伺った。

しくみデザインの中村俊介 代表

始まりは、14年前に開発したメディアアート「神楽–KaGuRa-」

--米Intelが主催した技術コンテスト「Intel Perceptual Computing Challenge」(2013年)で優勝、そしてスペインで開催された世界的な最先端音楽スタートアップ・コンペティション「Sónar+D Startup Competition 2016」での優勝など海外でも評価を得ていますが、「KAGURA」のこれまでを振り返っていかがですか?

中村氏:「KAGURA」は、14年前、まだ九州芸工大の大学院生だった頃に開発したメディアアート「神楽–KaGuRa-」が発想の元になっているんです。これは、メディアアート「色奏音画(しきそうおんが)」に続く2作目でした(編注:「色相音画」については前編を参照)。この頃はまだウェブカメラも全く普及しておらず、カメラを使って動きから音を出す特許も取りましたが、ビジネスにはなりませんでした。特許取得がきっかけで2005年に会社を設立しましたが、当時はソフトウェアのダウンロード販売も全く普及しておらず「神楽–KaGuRa-」の原理を汎用的に使えるエンジンとして開発しなおし、それを活用してサービスやツールを制作していました。

その「神楽–KaGuRa-」をリメイクしたきっかけとなったのが2013年のIntelの世界的技術コンテスト「Intel Perceptual Computing Challenge」への出場でした。14年前は実現できなかったことをコンセプトは変えずに、新しい技術で作ってみようと考えました。その際に「神楽–KaGuRa-」から「KAGURA」に名前を変え、グランプリも取ることができました。さらに、今年6月にスペイン・バルセロナで開催された「Sónar+D Startup Competition 2016」のピッチコンテストでも優勝できたことで、遂に時代が追いついてきたことを実感しました。

Intel Perceptual Computing Challenge(左)やSónar+D Startup Competition 2016で優勝するなど「KAGURA」は海外からも高く評価される (写真提供:中村氏)

--現在の「KAGURA」はリメイクされたものだったのですね。

中村氏:コンテストで優勝したことで、昔は評価されなかったもののコンセプト自体は古くなく、その時に必要な技術が当時足りていなかっただけだと感じていました。初めて賞を取った2013年以降、新しいデバイスや技術が出るたびに開発し続け、ようやくサイト上で体験版をダウンロードできるようになったのが2015年。パソコンやカメラの性能の飛躍的な向上、スマートフォンの普及、UGC(ユーザージェネレイテッドコンテンツ)やシェアの文化、それを可能にしたインフラの整備。10年前には無かった世の中の環境も整いました。ここまできたら「KAGURA」をもっと楽器として演奏してもらいたい。そこで今年、米クラウドファンディング・Kickstarterに挑戦しました。

Kickstarterでのプロジェクト達成、「KAGURA」は次のステージへ

--Kickstarterに挑戦してみて、反響はいかがでしたか?

中村氏:プロジェクト自体は目標額の2万ドルを達成し、結果として3万ドル弱を集めることができました。初めからグローバルを視野に入れた展開をしていきたいと考えているので、海外向けプロモーション手段のひとつとして実施しました。結果、海外のカンファレンスへの出演やデモのオファーも増えてきています。

--海外で「KAGURA」の演奏を見た方の反応はいかがですか?

中村氏:基本、反応は良いです。「KAGURA」を使って生演奏した後に、会場で体験しにきてくれる方もいるのですが、日本と比較するとノリが良い人が多いので積極的に演奏しにきてくれるんですよね。今年7月にアメリカ・サンフランシスコで開催されたジャパニーズポップカルチャーの祭典「J-POP Summit」でのデモには、会期中繰り返しきてくれる方や、親子で参加してくださる方もいました。

子どもでも大人でも、という点でいうと、デザインを敢えて子ども向けにしていないからこそ面白がってくださるんです。自分が子どもだったら、いかにも子ども向けのものって遊びたくない。ちょっと背伸びしたいじゃないですか。だから、UIは大人ベースで作って、使い勝手を子どもでもわかるぐらいに単純に作っています。体感して会得するのは子どもの方が早い。大人は原理を聞く。その反応の違いも面白いんですね。

海外イベントでは子どもからも好評を得た (写真提供:中村氏)

--今後「KAGURA」をどのように展開していきたいですか?

中村氏:「KAGURA」をひとつの楽器として、文化として、世界に普及させていきたいです。例えば、世界中にコミュニティを形成したり、プロの「KAGURA」ミュージシャンが生まれたり、音楽教育で使われたり。琴やピアノに並ぶような楽器として広めていきたいです。私が全く知らない人が世界のどこかでプロの奏者として活躍していたり、ヤマハやローランドといった有名メーカーから「KAGURA」が出るくらいになってほしいです。

--最後に、中村さんの今後の展望について教えてください。

中村氏:テクノロジーにできることは敷居を低くしてあげることだと思います。楽器を演奏することって難しいじゃないですか?だから、私も弾けなかった。最終的にプロを目指すには、壁は高くて当たり前でいいと思います。でも初めから難しいと感じてしまうと、挑戦できないし楽しくないですよね。でも、あるところで敷居をまたいでしまえば、ひとつの成功体験になるし何よりも楽しい。そうすると、視野が広がってできることも増えてきます。作ったり、表現することができる人が増えると、それだけで世の中楽しくなりそうな気がするんです。だから、楽しめるツールをこれからも作る側でいたいですね。

(取材・文:小松里紗/編集:市來孝人)