英国エコノミスト誌が発表している「世界でもっとも住みやすい都市ランキング」に6年連続で1位に選ばれているオーストラリア・ビクトリア州の州都メルボルン。実は、世界的な医療研究開発の中心地でもある。
ビクトリア州には、オーストラリア政府からの医療研究助成金の40%以上が割り当てられており、オーストラリアの医療研究を牽引していることがうかがえる。実際に、州都であるメルボルンには多くの独立医療研究機関があり、がん、心血管疾患、糖尿病、伝染病、神経障害やメンタルヘルスなどといった、医療に関するさまざまな分野の研究が行われている。そして現在、新たな医療研究機関として、エイケンヘッドセンター(Aikenhead Centre for Medical Discovery:ACMD)が建設中だ。
ACMDは、オーストラリア初となる病院ベースのバイオ医療工学の研究機関で、セントビンセント病院の敷地内に設置される。医療、工学、科学および産業融合のハブとして、患者の立場に立って設計された最先端の研究や技術、ソリューション開発の中心となることを目指していく。
ACMDの設立に関わる外科医のメルボルン大学 Peter Choong教授が、「臨床医、エンジニア、研究者、産業界のエキスパートをひとつの病院に集約させ、コラボレーションを促すことで、疾患治療にアプローチしていきます」と説明するとおり、ACMDには、基礎研究からトランスレーショナル研究、臨床研究まで、さまざまな分野の専門家が、セントビンセント病院のほか、5つの大学および4つの研究機関から集結する。
「すべての分野のキープレイヤーが、一堂に会していることが何よりの特徴です。研究者やエンジニアだけでなく、患者の声を常に聞いている臨床医もコラボレーションに加わっていることに意味があるのです」(Choong教授)
ACMDの目玉となるのは、最新の3Dプリンティング技術を医療現場に活用するための「BioFab3D」センターだろう。Choong教授はこれまでに、3Dプリンタによってチタン製の踵を作製し、がんで踵の骨を失った患者へ移植することに成功している。今後は骨だけでなく、臓器や脳、筋肉、神経などの生体組織の再生を3Dプリンティング技術によって実現することが目標だという。
Choong教授は、「研究者と臨床医が協力し、3Dプリンタを利用することで、リアルタイムで移植部位の開発・生産を行い、患者に移植するというのが私たちのビジョンです」と意気込む。BioFab3Dは、セントビンセント病院をはじめ数機関から、すでに250万オーストラリアドルを調達しているという。
ACMDではこのほか、再生医療を中心に、脳シミュレーションシステムや、てんかん発作を予知するデバイスの開発など、医療、科学、工学および産業分野を融合させたバイオ医療工学の研究開発に取り組んでいく。また、近く学生も募集し、病院でのトレーニングを行えるような教育も実現していきたいとのこと。将来的にはライフサイエンス分野も統合させ、さらなる分野融合型の研究を進めていく考えだ。