岡山大学は9月26日、がん幹細胞が血管の細胞へ分化して腫瘍内で血管系を形成することを証明したと発表した。

同成果は、岡山大学大学院自然科学研究科ナノバイオシステム分子設計学研究室 妹尾昌治教授らの研究グループによるもので、米国科学誌「American Journal of Cancer Research」に掲載される予定。

腫瘍は血管の新生を促すことが知られているが、そこで作り出される血管のネットワークは複雑で、宿主の血管が単純に腫瘍へ向かって成長するということだけでは説明がつかない。最近、腫瘍に由来する細胞から構成された血管構造が存在することがわかってきており、なかでも、腫瘍細胞の血管内皮細胞への分化には腫瘍の不均一性の根源であるがん幹細胞が直接関わっていると考えられるようになってきている。

また疑似血管も、幹細胞性マーカーを発現する細胞から構成されていることが知られており、がん幹細胞は疑似血管の構成にも関与していると推察されるが、これらの関連性についてはわかっていなかった。

今回、同研究グループは、すでにマウスiPS細胞から樹立しているがん幹細胞株miPSLLCcm細胞を用いて、腫瘍血管の解析を実施。この結果、miPS-LLCcm細胞は、血管新生因子である血管内皮細胞成長因子VEGF-Aと塩基性線維芽細胞成長因子FGF-2を産生して、宿主由来の血管内皮細胞を巻き込みながら、自らも血管内皮細胞や疑似血管を構成していく様子を観察することに成功した。これは、がん幹細胞が腫瘍周囲の血管の内皮細胞の成長を促すだけでなく、腫瘍内の血管ネットワークを構成する細胞までも生み出していることを示しているといえる。

今回の成果により、腫瘍血管を標的とする新たな制がん剤の開発が進むことが期待されるという。

腫瘍内の血管系を表した図。がん幹細胞が、腫瘍周囲の血管の内皮細胞の成長を促すだけでなく、血管内皮細胞や疑似血管に分化し、腫瘍内の血管ネットワークを構成している