東北大学と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は9月26日、植物ホルモンのひとつである「オーキシン」の植物内移動が、地上の重力環境下と宇宙の無重力環境下で異なることを解明したと発表した。
同成果は、東北大学大学院生命科学研究科 髙橋秀幸教授らの研究グループによるもので、9月15日付の英国科学誌「npj Microgravity」に掲載された。
過去の宇宙実験において、微小重力下での植物の成長の仕方が地上と違うことは観察されていたが、同研究グループは今回、さらに詳細な植物ホルモンの植物体内での動きを、キュウリ芽生えを使って明らかにした。
キュウリ芽生えでは、重力を感知して「ペグ」と呼ばれる突起状の組織が、茎と根の境目(境界域)の下側にひとつ形成される。同研究グループは以前、スペースシャトルを利用した宇宙実験において、微小重力下ではペグが境界域の両側にひとつずつできることを見出していた。ペグは下側の種皮を押さえ、茎が上に伸びることによって芽生えが種皮から抜け出すのを助ける役割をしているために、境界域にペグが2つできてしまうと、上側のペグが邪魔してしまい種皮から抜け出すのに不利な形態になってしまう。
この理由について、同研究グループは、地上においては境界域の上側で植物ホルモンのオーキシンが減少することで上側のペグ形成が抑制され、下側だけにできるというモデルを提唱しているが、その仕組みや、微小重力の宇宙でオーキシンが減少せずに境界域の両側にペグができる理由は未解明となっていた。
今回、同研究グループは、国際宇宙ステーション「きぼう」実験棟の細胞培養装置を利用して、キュウリ芽生えを微小重力下と、遠心機による1Gの人工重力下で生育させ、植物体内でオーキシンを輸送するPINタンパク質に着目して解析を進めた。
この結果、オーキシンの輸送を担うPINタンパク質が、重力刺激に依存して細胞内で位置を変化させること、PINタンパク質をもつ細胞が協調して働くことで、これまでに知られていなかった新しいオーキシンの通り道を形成すること、キュウリ芽生えが地上で成長に有利な形態形成を行うために、この通り道を利用して上側でのオーキシンを減少させることが明らかになった。これにより、キュウリは進化の過程において、重力の方向を感知してオーキシンを組織の下側に運ぶことによって成長を制御する仕組みを獲得してきた可能性が示唆されたといえる。
また今回の結果により、宇宙で植物を生育させると成長制御機構が簡単に破綻してしまう可能性も示唆されたことから、同研究グループは「将来、宇宙飛行士が長期の宇宙滞在で食用作物を適正に生育させるためには、人工重力やその他の代替手段が必要になるかもしれません」とコメントしている。