デジタルサイネージとセンサーを活用したエンタメサイネージの制作からライブでの映像演出まで、インタラクティブコンテンツを手掛ける福岡のスタートアップ・しくみデザイン。最近では自由に体を動かすだけで誰でも演奏することができる楽器アプリ「KAGURA」が注目されている。しくみデザインはこれから何を目指すのか。創業時のエピソードから「KAGURA」に込めた想い、そして今後の展開について代表の中村俊介氏にお話を伺った。

しくみデザインの中村俊介 代表

デジタルとアナログを駆使して相互にコミュニケーションを

--まず、しくみデザインとはどんなことをやっている会社でしょうか。

中村氏:会社のメイン事業として10年以上携わっているのが、インタラクティブ広告の分野です。デジタルを通じて相互にコミュニケーションが取れるような体験を、さまざまなセンサーや映像技術で生み出しています。具体的には、テーマパーク内の体感アトラクションや、エンタメサイネージの制作ですね。最近では、サンリオピューロランドに新設した「ぐでたまランド」内のゲームを弊社で制作しました。

--なぜインタラクティブの分野に?

中村氏:一方的に情報を出す広告はなかなか見てもらえないので、画面を見ている人が何かに変身したり、通りがかりの自分に反応したりするコンテンツなら、見てくれるんじゃないかと。自分が参加しているという体験と、コンテンツの一部になるような体感や仕組みを提供したかったんです。

イオンモールなどの商業施設によく設置しているデジタルサイネージを活用したコンテンツも手がけています。始めた頃は、世の中にはただ広告が流れるサイネージが設置されているだけでした。そこで、誰でも興味を持ってもらえて参加できるように、ルールをあまり意識させないように制作したのがエンタメサイネージです。アートというよりはデザイン。仕組み化した事例のひとつです。

--だから、しくみデザインという社名なんですね。

中村氏:そうです。クリエイターとしてさまざまなサービスや仕組みを提供していますが、作る人が一番楽しい。元々は、新しい体験を生む"仕組み"をゼロから作りたかったんです。でも、生まれたときからデジタルに触れてきたデジタルネイティブの子達には勝てっこないと思っていて。そこで私たち大人が子ども達にできることを考えると、デジタルやテクノロジーを使って、子ども達が使うツールを用意してあげたり、その入り口を簡単にしてあげることだなと。その部分を実現する"仕組み"を作りたいんです。

しくみデザインは、エンタメサイネージだけでなく、SMAPやTRFなどアーティストのライブ演出も手掛けてきた。例えば2010年に行われたSMAPのライブでは、観客の動きに反応してステージ上にハートが集まる演出や、リアルタイムにカメラ画像を処理して会場内に映し出す演出を実現した。

--ライブ映像の演出を始めたのはいつ頃でしょうか?

中村氏:ライブでの演出は5、6年前から手掛けています。ステージ上の画面に、リアルタイムにカメラ映像を使って演出するのですが、観客もアーティストも毎回動きは同じではないので、もちろん映像にも変化が生まれます。映像は観客も映るため、自分がライブのコンテンツのひとつになっている感覚を味わえますし、演じるアーティストにも会場の観客との一体感を実現する仕組みを提供しています。

コンプレックスから生まれた?誰でも演奏できる新しい楽器「KAGURA」

インタラクティブコンテンツを中心に、新しい体験の仕組みを提供するしくみデザインは、近年・音楽アプリ「KAGURA」でも注目を浴びている。中村氏が音楽アプリ「KAGURA」を構想したきっかけとは、どのようなものだったのだろうか。

「KAGURA」で演奏する中村氏。身振り手振りで音楽を奏でる

--「KAGURA」を制作するにあたって、何か音楽との出会いがあったのでしょうか?

中村氏:音楽との出会いというほどのものは実はあまりなくて、むしろ音楽ができないことがずっとコンプレックスでした。楽器を弾けるってかっこいいじゃないですか。できる人がうらやましかったんです。だからといって、練習するモチベーションが湧かなかった。でも、楽器って練習しないと弾けるようにならないので、「練習しなくても弾ける楽器があったらいいのに」と思って考えたのが「KAGURA」の原型です。

--なるほど。では「KAGURA」の開発について詳しく教えてください。

中村氏:「練習しなくても弾ける」「簡単に音を出す」ためには、何かアクションがあって音が鳴り、音楽になるというのが自然。そのアクションを何にするか、大学院生の時に色々試しました。1作目は「色奏音画(しきそうおんが)」という作品で、ペンのストロークが全て音楽になるというもの。絵を描くことで音楽になるなら「それがいい!」と思って。でも、そもそも音楽をやっていないのに開発したので、想像していたような音楽にならなかったんですよね。良く言えば現代音楽ですが、ルールのない音楽になってしまいました。

--そこで2作目の「KAGURA」ですね。

中村氏:はい。1作目はペンで音を鳴らしましたが、もっと簡単に音を鳴らせないかと。そこでカメラを使って身体を動かすことで音が鳴る仕組みを実現できないかと考え、カメラの画像処理で動きを検出して、その動きに合わせて音が鳴るようなプログラムを開発しました。でもやっぱり音楽にならない。ただ音が並んでいるだけで、聞いていて全く気持ち良くなかったので、バンドをやっていた大学の後輩に、音楽の作り方を改めて教えてもらいました。そこで、コード進行や音楽理論について調べていくと2つの数式でほとんどのコード進行が作れそうだなということが分かったんです。もちろん、セオリーは色々ありますが、その部分を無視しても音楽にはなるんじゃないか、と考えました。プログラミングするために調べた音楽理論を数式化してみると、急に音楽っぽくなったんです。不協和音にならないように、適当に音を間引いてリズムっぽくする。当時は今ほどきちんとした演奏はできませんでしたが、楽器が弾けない私でも簡単に音を鳴らして音楽を演奏することができました。それが今の「KAGURA」に繋がるものです。


後編では「KAGURA」に懸けるしくみデザインのこれからの展開、そして中村氏が目指す「KAGURA」で実現したい音楽文化についてお聞きします。(後編につづく)

(取材・文:小松里紗/編集:市來孝人)