9月13日から15日にかけて開催された「GitHub Universe 2016」の基調講演において、GitHubのVP of Social Impactを務めるNicole Sanchez氏が、同社における若い開発者への投資や教育について発表した。本稿では、同社の人材開発への取り組みとともに、同氏が担当している「ソーシャルインパクト」に迫る。
よいエンジニアを獲得するためのユニークな取り組み
GitHubに限らず、米国を中心に活躍しているIT企業は教育への投資に積極的な傾向がある。これには優秀な人材を確保したいという狙いがある。IT革新が社会にもたらす影響は大きく、こうした活動を実現する力を持ったエンジニアやプログラマーには高い需要がある。優れたエンジニアやプログラマーを雇用できなければ、他社に対抗しうるサービスを実現することは難しい。
とはいえ、優れた能力を持ったエンジニアやプログラマーの数には限りがあり、どうやってこうした人材を確保するかが各社の課題になっている。効果的な方法の1つは魅力的な給与を用意することだが、もう1つ、エンジニアやプログラマーが働きたいと思う企業を作り上げるというアプローチがある。高い給与は魅力的だが、仕事に魅力がなければエンジニアやプログラマはすぐに離職してしまう。能力を発揮することがやりがいにつながるような環境であることこそ、優秀な人材の確保と長期の雇用につながっていく。
さらなるアプローチに教育への投資がある。教育に投資することで、より若い世代に対して会社の知名度を上げることができる。こうした取り組みは長期にわたって学生に対する魅力を高めるとともに、優れた人材を確保しやすくする土壌づくりとしても機能する。
基調講演に登壇したDavid Molina氏の教育プログラムはより米国的なものだ。同氏が設立したOperation Codeでは、現役軍人や退役軍人を対象にプログラマーになるための教育プログラムを提供している。退役軍人の再就職を支援するための教育制度などが米国には存在しているが、Operation CodeはIT関連の仕事に就くための取り組みを行っているところがユニークだ。
Founder & Excutive Director at Operation Code, David Molina氏。Operation Codeの取り組みを紹介するとともに聴講者へ参加を呼びかけた |
ソーシャルインパクトで人材発掘
David Molina氏の活動を支援することは、まず社会貢献としての意味がある。軍人時代の業務はプログラミングやエンジニアリングに向いているものも多い。退役軍人が次の就職口を見つけるのは難しいと言われており、Operation Codeの取り組みはそうした人たちに有益なサービスとなる。
こうした活動を支援することには、実のところ、社会貢献に加えて、企業としての利益もあるようだ。Operation Codeの教育課程を経てプログラマーになったユーザーは、その段階でGitHubについて深い知識と経験を得ることになる。GitHubとしてはGitHubを活用した教育を受けたプログラマーのほうが雇用対象として魅力的だ。
仮にGitHubで雇用されなかったとしても、Operation Codeの教育課程を経てプログラマーになったユーザーはオープンソースにおけるコントリビュータになることを意味しており、結果的にオープンソース・コミュニティに寄与することになる。オープンソース・コミュニティの活発化はそのままGitHubの価値向上にもつながるため、GitHubとしてはWin-Winの関係が構築できるというわけだ。
Nicole Sanchez氏はGitHubで「ソーシャルインパクト」という側面での活動に従事している。日本ではソーシャルインパクトという言葉が金融分野の言葉として知られているが、ここでいう「ソーシャルインパクト」とはそういうことではない。IT業界で最近「ソーシャルインパクト」という言葉が使われる機会が増えており、GitHubにおいても重要な役割を担っている。
IT業界で言うところの「ソーシャルインパクト」は、「ある集団やコミュニティに対してよい効果をもたらす活動や取り組みのうち、比較的社会的影響の度合いが大きいもの、ないしはその取り組みが先進的であったり革新的であるもの」を指す言葉として使われている。
説明が曖昧模糊でて申し訳ないが、例えばGitHub上でWebサービスを開発して提供したとする。この実装が画期的ではなくても、結果として多くの新しい雇用を生み出すことになった、災害時の人命救助に多大な貢献をしたちといった場合について、「ソーシャルインパクト」を連想してもらえればと思う。
ソーシャルインパクトは社会貢献の側面が強いが、人材発掘において、企業としての利益ももたらす。優れた能力を持っていながら適切な職を得ることができないことは、米国に限らず世界中にある問題だ。ソーシャルインパクトのようなアプローチを使ってそうした能力を持った人材により適切な職場を割り当てることができれば、企業にとっても本人にとってもメリットがある。こうして優れた人材を発見して招き入れることができれば、GitHubとしては大きな利益が得られることになる。
「ソーシャルインパクト」という言葉は、これから日本でも使われる機会が増えるのではないだろうか。言葉の定義づけは今後進むと思うが、こうした考え方が人材開発のアプローチになることや、すでにこうした考え方に基づいた取り組みが行われていることは知っておいたほうがよいだろう。