東京医科歯科大学(TMDU)は9月14日、光リソグラフィ技術を用いて、ガラス基板上の細胞を無細胞化した羊膜上に転写し、さらにその上に異なる種類の細胞を積層して培養し、マウス骨欠損モデルにおける欠損部に移植することで、組織が再生できることを確認したと発表した。

同成果は、同大大学院医歯学総合研究科寄付講座ナノメディスン(DNP)講座の岩崎剣吾 講師、同講座責任者で、同大の研究・国際展開担当理事でもある森田育男氏、同大 生体材料工学研究所物質医学工学分野の岸田晶夫 教授、大日本印刷(DNP)らによるもの。詳細は9月14日付の国際科学誌「Scientific Reports」(オンライン版)に掲載された。

失った体組織の再生に向け、体の外で培養した細胞を移植して組織を再生させる治療法の開発が進められているが、生体の組織は複雑な3次元的な構造を有しており、それに似せた移植材料を作ることは難しかった。岩崎講師らは、これまでに印刷技術を応用することで、ガラス基板上に作製した細胞膜にフォトマスクを被せ、紫外線を用いた光リソグラフィ技術による細胞のパターン形成ならびに移植用単体(羊膜)への圧接を用いた細胞移植などを実現してきたが、いずれも単一の細胞種のみであった。

フォトリソグラフィ技術を活用した細胞転写技術の概要。ガラス基板上に疎水性の膜を形成し、フォトマスクを被せ、紫外線を照射すると、フォトマスクで覆われた部分以外が除去され、親水性の細胞接着面が形成される。そこに細胞を播種し、培養を行うと、狙った部位に細胞を培養することができる (出所:TMDU発表資料)

そこで今回の研究では、生体に近い複雑な構造をした複数種類の細胞を含んだ移植材料の実現に向けた取り組みを実施。最終的には、「2層転写法」と同士らが呼ぶ、ガラス基板上に1つ目の細胞層を形成した後に、2つ目の細胞層を形成する手法を考案。マウスの骨芽細胞と歯根膜幹細胞、歯根膜幹細胞と血管内皮細胞、繊維芽細胞と歯根膜幹細胞などの異なる細胞の組み合わせで転写が可能であることを確認したとのことで、「2層転写法は幅広い接着性の細胞に応用が可能だと考えられるという結論を得た」(岩崎氏)とする。

2層転写法の概要。1層目の細胞と2層目の細胞が接着されていることが断面写真から見て取れる (出所:TMDU発表資料)

さらに、3種類の細胞を用いた「3層転写法」も考案。歯根膜幹細胞、血管内皮細胞、繊維芽細胞の組み合わせで実現可能であることを確認したという。

3層転写法の概要 (出所:TMDU発表資料)

また、移植時にピンセットなどの物理刺激を受けて細胞が脱落してしまう可能性などがあることから、2層転写法で作製した細胞シートに対し、折りたたみ、穴あけ、トリミングといった試験を行い、いずれも2層の細胞が膜の上に定着していることを確認。移植時に簡単かつ安心して、医師が使えることが示されたとしている。

各種の物理的な刺激を受けても細胞が脱落しないことが確認された (出所:TMDU発表資料)

実際に再生医療への適用検討のために、マウスの頭蓋骨を直径3.75mmほど欠損させ、そこに骨芽細胞と歯根膜幹細胞の2層シートを移植。歯根膜幹細胞、骨芽細胞の単層シートを移植した場合、大きな変化が見られなかったが、2層シートの場合、2週間で石灰化物が発生していることが確認され、骨の再生につかえることがわかったとのことで岩崎氏は、「2種類以上の細胞と細胞のコミュニケーションを考慮しながら、再生を行うという新しいアプローチが可能になる」と説明する。

マウスの頭蓋骨に直径3.75mmの欠損を作り、そこにヒト細胞由来の骨芽細胞と歯根膜幹細胞を積層した細胞シートを移植し、骨芽細胞、歯根膜幹細胞の単層細胞シートを移植した場合との比較。2週目になると単層シートでは変化がほぼ見受けられないが、2層シートでは石灰化物が生じている様子が見て取れる (出所:TMDU発表資料)

なお4層以上の研究については、「先行研究から、4層以上では酸素などが浸潤しないということが報告されており、そちらではなく、適用できる細胞の種類を増やしていく」(岩崎氏)としているほか、歯周病によって失った歯の周辺細胞の再生による治療や、血管再建を体内で実現する再生治療などへの応用を進めて行きたいとしている。