越境ECの進出先として注目を集める中国。市場攻略のポイントや、インバウンド需要を取り込む方法などを解説したビジネスセミナーの内容をご紹介します。
中国では春節と並ぶ大型連休となる、10月の「国慶節」に向けて、旅行の計画や買い物のリストが作成される時期となっています。円高の影響もあり、いわゆる「爆買い」は一服したと言われていますが、日本はまだまだ人気の旅行先。訪日観光客を対象としたインバウンド消費やその後の越境ECでの成功を狙うなら、今からすぐに準備を始める必要があります。
そこで今回はアライドアーキテクツ株式会社が開催した、「中国検索エンジン最大手『百度(Baidu)』がゲスト登壇 インバウンド・越境ECセミナー」の内容をご紹介します。
当日は、中国最大の検索エンジン「百度(Baidu)」の担当者や、家具ECで急成長を続けるベガコーポレーションの社長らがスピーカーとして登壇。中国EC市場の現状を踏まえ、インバウンドや越境ECで成功するためのポイントなどを解説しました。「百度(Baidu)」の検索トラフィックに基づく市場分析や、越境ECの具体的なノウハウなど、実務に役立つ話に聴講者は熱心に耳を傾けていました。
「中国検索エンジン最大手『百度(Baidu)』がゲスト登壇 インバウンド・越境ECセミナー」
【プログラム】
第一部
「中国ー日本間でのマーケット動向について」
アライドアーキテクツ株式会社 事業企画室室長 小川 裕子 氏
第二部
「国慶節向け!!『百度(Baidu)』を活用した集客・販売に繋がる施策
インバウンド&越境EC」
バイドゥ株式会社 国際事業本部 本部長 高橋 大介氏
第三部
「越境ECの新しい形!日本から全世界を相手にした新手法をご紹介!」
株式会社ベガコーポレーション 代表取締役 浮城 智和氏
第一部「中国ー日本間でのマーケット動向について」 データが示す中国市場の優位性と将来性
セミナーの第一部では、中国への越境ECや中国人観光客のインバウンドの現状と将来性について、アライドアーキテクツ株式会社・事業企画室室長の小川 裕子 氏が各種データを示しながら解説しました。
■インバウンドは中国が圧倒的首位
小川氏は、中国人観光客によるインバウンドについて、日本政府観光局のデータなどを引用しながら、「現在も優位な市場であり、非常に大きなポテンシャルを秘めている」と指摘しました。
【中国人観光客のインバウンドの現状】
(1)2016年1ー6月期の訪日中国人の人数は、前年同期比41.2%増と大幅に増えている
(2)インバウンドの消費額を国別で集計すると、中国のシェアは37%で圧倒的首位
(3)2015年の中国人観光客による買い物代は約8,000億円で、Amazon.co.jpの年間流通額の約半分に匹敵する莫大な金額
小川氏はこうしたデータを踏まえ、「最近、中国人による爆買いで賑わっていた銀座に閑古鳥が鳴いているといったニュースも目立つようになったが、実際には、日本を訪れる中国人は増えている。中国人にとって日本は人気の旅行先であることに変わりはない。円高などの影響で旅行客一人当たりの消費額が減ったとしても、インバウンドの将来性が低いと判断するは間違いではないか」(小川氏)との見解を示しました。
■中国への越境ECは今後3年で2.9倍に
続いて小川氏は、日本から中国への越境ECの現状と将来性について解説。中国への越境EC市場は今後も急拡大が見込まれる一方、日本国内は今後、人口減少や高齢化が急速に進むことから、日本企業にとって中国市場の魅力はますます高まっていく可能性を指摘しました。
【中国向け越境ECの現状】
(1)インターネット利用者は約7億人の巨大マーケット。スマホやSNSの利用率も高い
(2)2015年の日本から中国への越境ECの市場規模は約8,000億円に達した
(3)日本から中国への越境ECの金額は、2019年には現在の2.9倍の2兆3,000億円に拡大する見通し
“中国からのインバウンドの市場や、中国への越境ECの市場は、立ち上がったばかりであり、国内のEC市場と比べればまだまだライバルは少ない。中国の市場に対して、今から何らかの施策を打っておくことが、将来を見据えた重要な成長戦略になるのではないか(小川氏)”
■文化や商習慣に合ったプロモーションが必須
小川氏は最後に、中国の市場環境や商習慣は日本とは異なる部分も多く、中国EC市場には次のような特徴があると説明した上で、効果的なプロモーションの方法について解説しました。
【中国市場の特徴】
(1)世界的企業であるGoogle、Facebook、YouTubeなどが利用できない
(2)検索は「百度(Baidu)」、SNSは「微博(Weibo)」、チャットは「微信(WeChat)」などの利用率が高い
(3)ECではブロガーや「網紅(ワンホン)」(中国におけるYouTuberのような存在)などインフルエンサーの影響力が強い
こうした中国市場の特徴を踏まえ、アライドアーキテクツが手掛けている越境EC支援の内容にも言及。例えば、アライドアーキテクツは「百度(Baidu)」の各種広告や、「微博(Weibo)」、「微信(WeChat)」を活用した広告配信サービス「WEIQ」の正規代理店であるため、中国現地に向けたさまざまなプロモーション施策の支援を行えることも強みだそうです。「中国における市場調査から、本格進出まで、さまざまなフェーズできめ細かく支援する」(小川氏)と強調し、セミナーを締めくくりました。
第二部「国慶節向け!!『百度(Baidu)』を活用した集客・販売に繋がる施策 インバウンド&越境EC」 検索エンジン中国最大手が明かす中国市場攻略のポイントとは
第二部では、中国における検索エンジン最大手、「百度(Baidu)」の国際事業本部本部長・高橋 大介 氏がスピーカーとして登壇しました。同社が持つマーケットデータに基づき、中国人観光客のインバウンド需要を取り込む方法や、中国への越境ECで成功するためのポイントを解説。消費が盛り上がる中国の祝日「国慶節(10/1)」を見据え、検索エンジン「百度(Baidu)」やオンライン地図サービス「百度地図」を活用して効果的なプロモーションを行う方法を紹介するなど、実践的なセミナーとなりました。
【百度(Baidu)】
検索エンジンで有名な同社は近年、オンライン地図サービス「百度地図」や旅行情報サイト「百度旅行」を強化している。配車サービスや航空券比較サイトにも出資するなど、消費者の移動情報や位置情報を活用した分野に注力している。
■中国人観光客には「地図広告」が有効
高橋氏は、「越境ECやインバウンドに取り組むときは、中国人の目線に立って、中国人になったつもりで施策を打つ必要がある」と指摘した上で、中国人観光客の特徴を踏まえ、インバウンドに対する効果的なプロモーションの方法について次のように解説しました。
(1)旅行前に検索エンジンを活用して自社商品をPR
中国人観光客は旅行前に検索エンジンで旅先の下調べを行い、「買い物リスト」を作成することが多い。また、旅行のオンライン予約の約80%はモバイル経由だ。インバウンド需要を取り込むには、旅行前の時点でウェブサイトやウェブ広告で中国人ユーザーにPRしておくことが重要となる。ウェブサイトはスマホへの最適化が必須で、中国人向けに専用ウェブコンテンツを作ることが望ましい。
(2)旅行中は「百度地図」で店頭へ誘導
旅行中は地図アプリを使って旅先を回ることが多い。訪日中国人の25%以上が利用している「百度地図」は、旅行中の中国人にアプローチする有力な広告プラットフォームだ。地図上に広告やクーポンを表示して店頭へ誘導したり、店舗から数kmの範囲に近付いたユーザーにプッシュ通知を行ったりすることも非常に有効な施策となる。
“中国人旅行客のインバウンド需要を取り込むには、旅行前や旅行中に、適切な施策を打つ必要がある。中国人の気持ちになって、観光客の行動を想定し、自分たちの商品の情報をいつ、どのように届けるのかを考えることが重要だ(高橋氏)”
■越境ECにおける検索エンジンの活用法
高橋氏は次に、越境ECで商品を買う中国人ユーザーの特徴を説明し、それを踏まえて日本から中国へ越境ECを行う際のポイントを説しました。
(1)越境ECで商品を買う中国人ユーザーの特徴
・越境ECを利用する最大の理由は「商品の品質が良い」「偽物が少ない」
・人気商品は化粧品、衣類、雑貨、ベビー用品、腕時計など
・越境ECに対する不満は「配送日数が長い」など物流に関するものが多い
・越境ECの利用者は年間約4,000万人
・20~30代がメインユーザー
(2)越境ECの成功ポイント
物流に対する不満を持つ中国人ユーザーが多いため、配送日数や物流品質を訴求する(広告に「配送日数3~5日」と表示するなど)ことが有効となる。中国製品への信頼度が低い化粧品や高級品などは売れやすい。中国の国内では買えない日本製品を扱うことも有効。偽サイト(コピーサイト)が横行しているため、自社サイトがコピーされていないかチェックが必要となる。
(3)「百度(Baidu)」の利用方法
検索エンジンを活用したリスティング広告、画像リッチなショッピングサーチの活用、約60万サイトを束ねる中国最大のアドネットワークの利用、DMPを活用したターゲティング広告などの活用など、幅広い活用の可能性がある。
■日本企業による越境ECのポテンシャルは大きい
高橋氏によると、「百度(Baidu)」で検索されている越境EC関連のキーワードのうち、日本関連のキーワードが34%を占めており、国別では最も比率が高いとのこと。中国の越境EC市場において取引額は米国が1位であるものの、「現在の検索ボリュームを踏まえれば、日本からの越境ECが今後も伸びていく可能性が高い」(高橋氏)との見解を披露しました。
さらに、「日本の商品を探している中国人が、インターネットで検索しても日本企業のECサイトを発見できず、仕方なくAmazonなどのECサイトで類似品を注文している可能性もある。そうした可能性も踏まえれば、日本企業にとって越境ECのポテンシャルは非常に大きいのではないか」(高橋氏)と指摘し、講演を終えました。
第三部「越境ECの新しい形!日本から全世界を相手にした新手法をご紹介!」 在庫リスクを抑えた「直送型越境EC」のメリットとは
セミナーの第三部は、家具のECで急成長を続けている株式会社ベガコーポレーションの浮城 智和 社長がスピーカーとして登壇。昨年12月に運営を開始した越境ECモール「DOKODEMO(ドコデモ)」を紹介するとともに、在庫を日本から現地に送る「直送モデル」の越境ECのメリットや、成功のポイントについて解説しました。
【ベガコーポレーション】
2004年に家具のドロップシッピングでECを開始。現在は家具の製造小売業として「LOWYA(ロウヤ)」「LaLaStyle(ララスタイル)」「BAROCCA(バロッカ)」などターゲット層に合わせた5種類の国内ECサイト(ブランド)を展開している。2016年3月期のEC売上高は83億円だった。今年6月、東証マザーズに上場。本社は福岡県博多区。
■在庫リスクや初期投資を抑えた越境EC
浮城氏は、昨年12月に提供を開始した越境ECモール「DOKODEMO(ドコデモ)」について、「中国をはじめとする全世界に向けて、日本から海外に商品を直送する越境ECのプラットフォーム」と説明。出店企業は在庫リスクや初期投資を抑えられる上、自動翻訳や決済システム、データ分析機能などを利用できるため、作業負担が軽いことなどが特徴だと説明しました。
【ショッピングページの特徴】
・美容、健康、食品、雑貨、アパレルなど様々なカテゴリーの商品を全世界に販売
・ECサイトは多言語表示や多通貨決済に対応
・言語や通貨の自動切り替え機能を実装
・言語は英語、繁体字、簡体字、韓国語に対応済み(今後増やしていく計画)
・決済手段はクレジットカードのほか、ペイパル、アリペイなどにも対応
・アプリにはバーコードスキャン機能を実装
・開始後6カ月の出荷先地域は累計40カ国以上(中国が最多)
【機能面の特徴】
・日本語の商品ページを自動で現地語に翻訳(手動翻訳サービスも有り)
・販売価格は日本円で設定し、各国の為替レートに自動で変換(為替リスクは消費者が負う)
・堅牢な情報セキュリティーや厳しい受注審査体制
■直送でカントリーリスクを回避
ベガコーポレーションは2008年~2009年にかけて、中国に現地法人を設立し、ECを手掛けていましたが、いくつものリスクに直面し、約1年で中国事業から撤退。その経験から、越境ECに取り組む初期段階は、在庫を日本から直送するビジネスモデルが最善という結論に至ったそうです。
“中国で実際にECに取り組んだ結果、ECサイトの違法コピーが横行していたり、政治的な摩擦による経済への悪影響が出たりと、想像以上にカントリーリスクが高いことがわかった。越境ECに取り組む際は、事業を出来る限り国内で完結した方がリスクヘッジできる(浮城氏)”
浮城氏は、直送モデルは在庫リスクが少ないため、さまざま商品をテスト販売できることもメリットであると強調。「越境ECで何が売れるかは、やってみるまで分からない。これが売れる、これは売れないという先入観を持たず、自社の商品を幅広く売ってみることも重要ではないか」(浮城氏)と指摘しました。
■ECのノウハウも提供
「DOKODEMO(ドコデモ)」を開発して越境EC支援事業に乗り出した理由について、「当社が扱う家具は越境ECに向かないと考えている。大型なので配送コストが嵩むし、日本の家具が海外でそれほど人気になるとも思えない。そのため、当社はシステムの提供に専念し、海外で売れる商品をお持ちの企業のお手伝いをしたい」(浮城氏)と説明しました。
ベガコーポレーションは、過去に手掛けたゲームアプリ1タイトルのダウンロード(DL)数が世界累計5,000万を超えるなど、ゲーム事業で成功した経験も持っています。ゲームアプリのDLを促進したプロモーションの知見も「DOKODEMO(ドコデモ)」にいかしているそうです。
今後の計画について、浮城氏は、「今後1~2年で数億円を投資し、機能を強化していく」と明言。また、「DOKODEMO(ドコデモ)」に出店した企業に対して、「これまで自社が培ったECのノウハウを無料で惜しげなく提供していきたい。直送による越境ECで成功できることを、皆様と一緒に証明していければ嬉しい」と抱負を語り、降壇しました。
セミナー終了後には、スピーカーとして登壇した3社が聴講者との個別相談会を実施。越境ECへの参入を検討する聴講者が積極的に相談会に参加する姿も目立ち、中国市場への挑戦を検討する企業が着実に増えている現状が垣間見えました。
<取材・執筆>
ライトプロ株式会社 渡部 和章
本稿は、ソーシャルメディアマーケティングラボにて掲載された記事を転載したものです。
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