慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス(SFC)の環境情報学部 中澤准教授のグループは、2013年1月頃から、神奈川県藤沢市のゴミ収集車に環境データを測定するセンサーを取り付け、サーバにデータを収集する実証実験を開始した。
センサーが収められたボックスは、ゴミ収集車の屋根に取り付けられ、PM2.5、UV、温度、湿度の各データを、位置情報(GPS)、加速度、方位とともに毎秒100回、慶應大学内のサーバに送信する。現在は、約100台のゴミ収集車にセンサーが取り付けられ、エンジン稼動中はたえず、データを送信している。
環境データの収集システムとしては、環境省が2000年6月に開始した「大気汚染物質広域監視システム」(通称:そらまめ君)がある。全国約1800カ所に観測点を設け、二酸化硫黄、光化学オキシダント、一酸化窒素、二酸化窒素、一酸化炭素、浮遊粒子状物質(SPM)、非メタン炭化水素、風向、風速、気温、相対湿度の1時間値(速報値)を、24時間提供している。藤沢市内にもそらまめ君の測定局が5カ所(一般環境大気:4カ所、自動車排気ガス:1カ所)設置されているが、中澤氏は、市民生活に役立つデータを提供するためには、さらにセンサーを増やす必要があると指摘する。
「空気の流れは一様ではなく、吹き溜まりのような場所もあり、5カ所の値だけはわからないエリアもあります。そのため、市民の方に自分の周りはどうか、市内のどこが行くのを避けるべきエリアなのかを伝えるためには、もっと細かい粒度のデータが必要です」(中澤氏)
さらなるデータ収集に向け、当初はバスやタクシーにセンサーを付けることも考えたが、カバーエリアが狭いため、同氏はゴミ収集車に目を付けたという。
「藤沢市ではゴミの戸別収集を行っており、ゴミ収集車が各戸の前を1日一度は通過するため、人が住んでいるところはすべてカバーできると考えました」(中澤氏)
そこで同氏は、連携等協力協定(注1)を結んでいる藤沢市に、スマートシティ実現に向け協力を求めた。
(注1)藤沢市とSFCは、2009年10月地域社会の発展と研究・教育活動の推進、人材育成等に寄与するため、「藤沢市と慶應義塾大学との連携等協力協定」を締結している。
協力を求められた藤沢市では、当時、ビッグデータを解析して行政課題を解決する取り組みを行いたいと考えていたという。
「従来の行政は、すでにある個別の課題に対して解決手段を見つけていくのが業務の流れでしたが、ビッグデータ時代においてはデータを解析することで、これまで手をつけられていなかった課題を解決できるのではないかと考えていました、そのため、慶應大学さんからお話をいただいときは、環境データを活用して住民サービスが向上できるのはないかと考えました」(藤沢市 総務部 IT推進課 情報政策担当 主査 瀧敦司氏)
こうして2013年ごろからゴミ収集車による環境データの採取はスタートした。
また、「モノのネットワーク技術(IoT:Internet of Things)」をクラウドコンピューティングと融合させ、共通のサービス基盤を用いたスマートシティサービスを実現する情報通信研究機構が研究委託する「新世代ネットワークの実現に向けた欧州との連携による共同研究開発」プロジェクトに慶應大学が参加しており、実証実験の自治体として藤沢市が選ばれていたため、センサーボックス等の機材の調達が国の予算で行えたことも藤沢市の参加を後押しした。