肥満に伴う大腸の炎症が糖尿病の発症につながることを、慶應義塾大学の研究グループがマウスの実験で明らかにした。肥満による糖尿病発症には内臓などの脂肪組織の炎症が大きく影響しているとこれまで考えられていたが、今回新たな糖尿病発症メカニズムが解明され、新しい治療薬開発につながると期待される。研究成果はこのほど、米科学誌に掲載された。

研究グループによると、糖尿病のほとんどを占める2型の患者は国内で約2,000万人。網膜症などの合併症を起こして失明や人工透析の原因となり、心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化性疾患を誘発する。

慶應義塾大学医学部内科学教室の川野義長(かわの よしなが)助教、中江淳(なかえ じゅん)特任准教授、伊藤裕(いとう ひろし)教授らは、マウスに脂肪分を60%含む高脂肪食を与えながら4週間飼育した。その結果、マウスは免疫細胞のマクロファージの集積を促す蛋白質「Ccl2」の産生が増加し、マクロファージが集積して大腸の慢性炎症を引き起こした。さらに炎症性の物質が血中を循環してインスリンの効きを悪くしていることも明らかになった。

研究グループはまた、大腸の腸管上皮だけでCcl2が欠損する遺伝子改変マウスを作製して調べたところ、大腸だけでなく脂肪組織の炎症も抑えられた。さらにインスリンの効きが良くなり、血糖値の上昇も30%程度低下したという。

研究グループは今回の研究結果は、肥満になっても腸管で炎症が起こらないと糖尿病になりにくいことを示し、将来的には腸の炎症を抑える新しい糖尿病治療薬の開発が期待される、としている。

関連記事

「世界の糖尿病人口4憶2千万人に WHOが対策実施求める」

「肥満が炎症性疾患発症促進する仕組み解明」