中国本土の主要半導体企業を中心に大学・研究機関、半導体設計・製造から半導体ユーザーに至る産官学の機関・企業が、中国中央政府主導で「ハイエンド・チップ・アライアンス(High-End Chip Alliance:HECA)」という名称の業界アライアンス(連盟)を結成したと、中国および台湾の複数のメディアが8月7日までに伝えた。今回のアライアンスは国家規模での垂直統合型の半導体エコシステムの構築を促進する目的で設立された。

現在、中国は、世界の半導体の6割を消費しているにもかかわらず、そのうち中国国内で製造されている半導体は2割台でしかないため、中国政府が自ら主導して、アーキテクチャ(LSI設計)、半導体チップ製造、ソフトウエア開発から半導体応用最終製品、システム、IT(情報技術)サービスに至る一貫したエコシステムを構築して中国IC産業に急速な成長をもたらし自給体制を確立しようとしている。創立時点で清華大学、紫光集団、SMIC、Huawei、Lenovo(レノボ)はじめ27社(機関)が加入している。政府研究機関、大学、ファブレス、ファウンドリだけではなく半導体ユーザー企業もメンバーに加わっている点が注目される。理事長には、中国政府のIC産業投資基金のトップが就任した。アライアンスの概要を表1に示す。

中国名称 高端芯片連盟
英語名称 High-End Chip Alliance(HECA)
設立年月日 2016年7月31日
中国政府主管・指導部門 国家集成電路産業発展領導小組弁公室
目的 国家規模での垂直統合型エコシステムを構築し、半導体自給体制の早期実現を図る
理事長 国家集成電路産業投資基金の丁文武総経理
副理事長 紫光集団の趙偉国董事長
メンバー 清華大学、北京大学、中国科学院微電子研究所(IMECAS)、工業信息部電信研究院(CAICT)、紫光集団、長江存儲、SMIC, 中国電子、レノボ、Huawei (華為)、ZTE、など合計27社(機関)
表1 HECAの概要

台湾勢は中国の動きに戦々恐々

台湾に本拠を置く市場動向調査会社TradeForceは8月8日付けで今回のアライアンス結成について、同社調査マネージャーであるJian-Hong Lin氏による分析結果を発表した。それによると、「今回の政府・学界と産業界の提携は、中国内半導体メーカーのために完全なエコシステムを構築することを目指している。このアライアンスがうまくいけば、チップアーキテクチャから半導体製造を経てITサービス市場までの広範な領域をカバーする国内半導体産業チェーンが構築されることになる。この動きは、半導体の主要製造国であることに甘んぜず、製品品質の面でグローバルな製造リーダーへと自らを変革しようという中国政府の野心の表われである」としている。

Lin氏は、今回の中国のアライアンスは台湾の半導体業界への警告としてとらえているとして「台湾の半導体企業は、国内市場のわずかな需要と国内でしか通用しないブランド力で生き残ることはできない。とりわけ、ローカルなICデザインハウスは生き残りが難しい。彼らの長期的な成長は、国際市場での新しい需要とアプリケーションのニーズを見出せるか否かにかかっている。中国は現在、台湾のICデザインハウスにとって最大の市場である。台湾の半導体業界が中国のカウンターパートともっと合弁事業や戦略的パートナーシップを構築できるように台湾政府が認可をだすように交渉する必要がある」と述べている。TSMCは現在、南京に自前の半導体工場を建設中であるが、弱小の半導体設計企業は、このままでは取り残されてしまうと悲壮感が漂う。台湾新政権(民進党)は、「1つの中国」を認めず、中国とは一定の距離を置く政策を打ち出している。

中国半導体が克服すべき問題点とは?

「この中国政府主導のアライアンスは、中国国内メーカーが製造した国産半導体デバイスの購入を促進するだけではなく、半導体アプリケーション開発の重要なプラットフォームになるだろう。その前に、中国半導体業界はいくつかの問題を克服しなければならないが、このアライアンスによりこれらのハードルが取り除かれ、垂直統合や基礎研究が促進できそうだ」とLin氏は指摘している。

また、中国半導体業界の克服すべき問題点について同氏は、「中国企業は(自己主張が強い国民性のため)協業することが不得意である。たとえば、中国の半導体メーカーSpreadtrumとRDA Microelectronicsは共に紫光集団に買収されたにもかかわらず、いまだにばらばらに操業している。異業種との協業はもっと難しい。SpreadtrumとHuaweiの子会社HiSiliconは16nmプロセス技術を用いて設計しても、SMICに製造委託しようとすると、もっと古いプロセスしかもっておらず、協業が難しい。SMICにとっても、国内の製造装置・材料メーカーのプロセス対応はさらに世代の古いレベルのため整合がとれていない。新たなアライアンスは中国の半導体および周辺産業に目標と動機を明示することによってこれらの問題が解決することが期待される。アライアンスは明確な半導体技術ロードマップを業界に示す必要がある」と具体例を紹介して説明している。

自給自足だけではなく国際協調も必要

さらに、Lin氏は、このアライアンスにより、半導体自給自足という中国政府の野望は達成されるにしても、半導体企業は国際的な競争の中で生きているため、国際的な付き合いも大切であると指摘し、「たとえば、現在、Spreadtrumの会長兼CEOであるLeo Li氏が、世界規模の半導体業界団体(以前はファブレスの業界団体だったが、今は半導体エコシステム全体の業界団体:本部は米国)Global Semiconductor Association(GSA)の取締役会議長に就任している。C-Sky MicrosystemとHuaweiは、Embedded Microprocessor Benchmark Consortium(EEMBC:本部は米国) のボードメンバーに2016年初めに就任した。このように中国の業界人が国際組織の役員に就任することは中国半導体業界の進歩と国際化にとって大切である」とコメントしている。