東京大学(東大)は8月2日、分子振動を検出する世界最高速の光学顕微鏡を開発し、生きたミドリムシの個々の細胞に含まれる脂質や多糖類を無染色でイメージングすることに成功したと発表した。
同成果は、東京大学大学院 工学系研究科 電気系工学専攻 鈴木祐太特別研究員、小関泰之准教授、同大学院 理学系研究科科学専攻 合田圭介教授らの研究グループによるもので、8月1日付の英国科学誌「Nature Microbiology」オンライン版に掲載された。
無染色での生体観察法として、光を分子に照射することで生じるラマン散乱を検出するというラマン顕微法が知られている。しかし、ラマン散乱光は極めて微弱であるため、ラマン顕微鏡でのイメージングには数十分~数時間程度の長時間を要していた。これに対し、小関准教授らが開発を進めてきた誘導ラマン散乱(stimulated Raman scattering:SRS)顕微法は、2色の光パルスを分子に照射し、分子振動に由来する光パルスの強度の変化であるSRS効果を検出するというもので、ラマン散乱に比べて高い感度で高速に生体分子を識別し、数秒程度の短い時間内に分子イメージングを行うことができる。
同研究グループは今回、このSRS顕微法を用いて、ミドリムシ細胞が動かないように薬剤で固定してから観察し、ミドリムシ内部の、脂質とパラミロンを含む4種類の物質がイメージングできることを見出した。
また、SRS顕微鏡の画像取得速度を、従来の1秒あたり30枚から1秒あたり110枚に高速化し、生きて動くミドリムシを観察した。この結果、4つの分子振動周波数に対応するSRS画像を37ミリ秒という極めて短い時間で取得し、ミドリムシが細胞内に蓄積する物質を無染色で分子イメージングすることに成功した。
さらに、同手法を応用して、窒素欠乏状態に置かれる前の細胞集団と、窒素欠乏に置かれてから2日目および5日目の細胞集団から、それぞれ約100匹の細胞を観察・評価し比較したところ、窒素欠乏状態に置かれたミドリムシ細胞では、全体として葉緑体の量が減り、脂質やパラミロンの量が増えることが確認された。
同研究グループは、今回開発した細胞の評価手法を用いることで、ミドリムシを始めとする微生物がさまざまな環境変化や外部刺激に対してどのような応答を示すかを詳細に調べることが可能になり、高効率な物質産生手法の構築につながることが期待できるとしている。