米マイクロソフトが、7月11日~14日(現地時間)の4日間、カナダ オンタリオ州トロントで開催したパートナー向け年次イベント「Microsoft Worldwide Partner Conference 2016(WPC 2016)」は、同社の事業戦略が、本当の意味で、クラウドに大きくシフトしたことを示すものとなった。
初日の基調講演で、米マイクロソフトのサティア・ナデラCEOは、「Azureによって生み出されるインテリジェントクラウドは、クラウドの限界に挑むものになる」と発言。ハイパースケールによる高い信頼性と、真のハイブリッド環境を実現するAzureの強みを強調。さらに、「Conversation as a Platform」と呼ぶ、対話を通じた次世代プラットフォーム環境においても、マイクロソフトが先行していることを示して見せた。
また、3日目の米マイクロソフト ワールドワイドコマーシャルビジネス エグゼクティブバイスプレジデントのジャドソン・アルソフ氏の基調講演では、Azure、Office 365、Dynamics 365が、それぞれAWS、Google Apps、Salesforce.comよりも優れていることを具体的に示しながら同社クラウドの強みを訴求。
「AWSからAzureへの移行が進んでいるのは、マイクロソフトがパートナーと一緒にビジネスをやっているから」とし、パートナー戦略の成功がAzureの事業拡大につながっていることなどを強調してみせた。
会期中を通じて、ここまでクラウドの話に終始したWPCは、過去にはなかった。
今年のWPC2016には、全世界144カ国から約1万6000人のパートナーが参加。初めて、すべてのチケットが完売したという盛り上がりをみせた。なかでも注目しておきたいのが、1万6000人のうち、約4割が初参加となったということだ。これまでマイクロソフトと接点がなかったパートナー企業が参加しているのは、まさに、同社のクラウドへの関心が高まっていることの証だ。日本からは、日本からは150社384人が参加。そのうち、32社41人が初参加の企業となっている。
2014年2月にサティア・ナデラ氏がCEOに就任してから、マイクロソフトは、「モバイルファースト、クラウドファースト」の方針を掲げ、クラウドへのシフトを鮮明にしてきた。日本マイクロソフトでも、同社2017年度(2016年7月~2017年6月)中に、クラウドの売上比率を50%に引き上げる方針を掲げている。
既存ビジネスに縛られて、なかなか新たなビジネスへと移行できないのがパートナーである。そのパートナーを対象にしたイベントにおいて、ここまでクラウドという新たなビジネスに集中した内容としたことは、マイクロソフトのパートナービジネスが、ナデラCEOの発言から2年半を経て、本当の意味でクラウドビジネス中心の体制になったことを示すものだといっていいだろう。その点では、大きな転換を迎えたWPC2016であったことを感じさせる。
そして、もうひとつ、クラウドシフトへの大きな転換を感じさせるのが、WPC2016開幕直前に発表されたケビン・ターナーCOOの退任だ。営業・マーケティング部門を統括していたターナーCOOは、いわばWPC2016の主役。毎年、ターナーCOOから、パートナー向けの新たな施策が発表されていた。今回も直前まで、最終日には、ターナーCOOの基調講演が予定されており、そこでどんな施策が発表されるのかが注目されていた。だが、最終日に登壇したのは、マイクロソフト ワールドワイドコマーシャルビジネス エグゼクティブバイスプレジデントのジャドソン・アルソフ氏。これまでの慣例で言えば、いわば主役不在のWPC2016であったということもできる。
しかし、これも別の見方をすれば、マイクロソフトの転換を意味するものだといえるだろう。
米ウォールマート出身のターナー氏は、11年間に渡り、マイクロソフトに在籍。独自の評価指標を導入するなど、社内の営業、マーケティング体質を強固なものに変えてきた手腕が評価されている。だが、それは、既存のライセンスモデルを中心とした事業形態において最適化したものだったといっていい。クラウド時代の指標は、「コンサンプション(消費)」と「ユーセージ(利用)」。いかに売ったかというライセンスモデル時代とは異なるものだ。
つまり、WPC2016の開催直前でのターナー氏の退任は、マイクロソフトが、マネジメント層から新たな時代に適合するスタイルへとシフトすることを意味し、パートナー戦略においても、それを明確にする意味があったといえる。