東京大学(東大)は7月26日、海鳥の飛行データを用いて、気象衛星による観測を補間するような高解像度の海上風データを取得することに成功したと発表した。
同成果は、東京大学大学院農学生命科学研究科水圏生物科学専攻の博士課程3年 米原善成氏、後藤佑介氏、東京大学大気海洋研究所 佐藤克文教授らの研究グループによるもので、7月25日付けの米国科学誌「Proceedings of the National Academy of Science (PNAS)」オンライン版に掲載された。
海洋表面の風は、気象衛星に搭載されたマイクロ波散乱計によって、地球上の海の広範囲で1日2回観測されているほか、まばらに設置された海洋観測ブイによって毎時間観測されている。これらの海上風データは気象予報や海洋モデルの構築に利用され、大気や海洋の現象を把握するのに役立っているが、このような従来の観測手法では、詳細な時間・空間スケールで変化する海上の風環境を捉えることは困難で、観測空白域が生じていることが課題であった。
今回、同研究グループは、海表面付近を飛行する海鳥の行動を解析することで、この観測空白域を補間する風データが得られると考え、三陸沿岸で繁殖するオオミズナギドリにGPS記録計を取り付けて1秒間隔の飛行経路を記録。同記録のデータから、オオミズナギドリの飛行速度は、蛇行しながら飛行する間に変動していることが明らかになった。
この飛行速度の変動が、海鳥の進行方向に対する風の影響であると仮定すると、海鳥の飛行速度は追い風時に最大になり、向かい風時に最小になると考えられるが、同研究グループは、こういった風向・風速と海鳥の飛行速度の関係を利用することで、海鳥の飛行経路から5分間隔、約5km以内の詳細なスケールでの海上風を推定することに成功。さらに、ワタリアホウドリやコアホウドリの飛行データも用いて推定を行い、これらの推定値が気象衛星による海上風の観測値とよく相関していることを確認している。
特に、三陸沿岸を飛行するオオミズナギドリからは、気象衛星では観測が困難だった沿岸の海上風データを高解像度で取得することに成功しており、さらに1日2回の衛星による観測ではわからなかった、数時間から1日スケールの風向・風速の時間変化を捉えることができたという。
同研究グループは今回の成果により、低コストで長時間・広範囲の海上風を高い解像度で取得することができるようになるとしている。