スーパーコンピュータ(スパコン)をLINPACK性能順にランキングするのがTOP500であるが、エネルギー効率(性能/電力)でランキングするのがGreen500である。運用コストの点で消費電力低減は重要であり、Green500リストの重要性が増している。

Green500リストであるが、暫定的な上位11システムのリストは6月20日にISC 2016の会場で発表され、1位は理化学研究所(理研)の「Shoubu(菖蒲)」、2位は同じく理研の「Satsuki(皐月)」、3位は中国の「太湖之光(TaihuLight)」と発表されたが、正式なフルリストはこの時には発表されなかった。

Green500 1位で表彰を受ける関係者。右端は主催者のWu Feng教授。その右から順に理研の黒川氏、PEZYの齊藤社長、ExaScalerの鳥居CTO

そのフルリストが、やっと7月22日に発表された。今回からTOP500とGreen500の応募が統一され、Green500の消費電力の測定法にも変更が行われたため、フルリストの作成におおよそ1カ月掛かったと考えられる。

従来、TOP500の測定では、性能/電力が悪化しても高いLINPACK性能が得られる条件で測定し、Green500の測定では絶対性能は下がっても性能/電力が高くなるという条件で測定するというケースが多かったが、今回からは、TOP500とGreen500の測定条件を揃えることになった。

また、従来Green500ではLINPACK性能の測定区間の最初と最後を除いた区間の内の20%の区間の電力を測定すれば良いことになっていた。昔のスパコンでは、最初と最後を除けば電力はほとんど一定で、20%の区間を測れば十分であったからである。しかし、規模が大きくなってノードの数が増えた最近のスパコンでは、終わりの方の20%の区間では、かなり消費電力が低下するようになった。そこで、高い性能/電力の測定値を登録するため、規定の範囲内で電力が一番少ない最後の20%区間の測定値を使うことが多くなった。

これでは実行に要する全エネルギーを測定するという本来の趣旨から外れてきているので、電力の測定はLINPACK性能測定の最初から最後までの全区間の平均値とすることに規定が変更された。

これらの規則の変更は、どちらもGreen500の性能/電力値を下げる方向に働く。

今回発表されたフルリストを見ると、測定方法として、TOP500とSubmission、Derivedの3種類がある。TOP500と書かれたものは、TOP500のLINPACK性能と消費電力から算出されたものである。今年の6月の登録であれば新しい測定法に基づくものであるが、古いものであればどのように電力が測定されているかははっきりしない。

Submissionは以前のGreen500リストに載っていたもので、消費電力は前述の甘目の測定である可能性が大きい。Derivedは消費電力の実測は行わず、メーカーのカタログ値や消費電力計算ツールの計算値などを使っているものと思われる。

今回のリストではTOP500と書かれたシステムは500システム中の173システム、Submissionは55システム、272システムはDerivedである。このように素性の異なる測定でランク付けを行うのは難しい。

次の図は、6月20日にISC 2016で発表された暫定リストと7月22日のフルリストの抜粋である。暫定リストと、今回発表されたフルリストと見比べると、フルリストの4位と6位のシステムが入っていない。また、7位から10位のシステムが3775.45MFlops/WのInspur製のTS10000システムとなっている。TS10000システムは暫定リストでも5位に入っているが、スコアが暫定リストでは3375MFlops/Wとなっていたのが、フルリストでは3775.45MFlops/Wに向上している。

2016年6月20日にISC 2016の会場で発表された暫定リスト

2016年7月22日に発表されたGreen500のフルリストの上位10システム

ここで問題になるのは、旧リストから引き継いだLattice CSCの5271.8MFlops/Wが、新測定法でも5位のシステムの4778.5MFlops/Wを上回っているかである。この点では、Lattice CSCは2014年11月のGreen500で1位となったシステムで、その時の受賞講演で、その測定方法が詳しく発表されており、LINPACK測定の全区間の平均電力を使っていることが明らかにされている。このため、4位にランクするのが妥当と判断したのではないかと思われる。また、6位のXStreamの電力測定について発表された資料はないが、米国内のサイトであり、問い合わせるなりしてこの順位で良いということを確認したのではないかと思われる。

話は変わるが、麻生副総理・財務大臣が、7月13日にGreen500の1位と2位に輝いた菖蒲と皐月システムの視察に理研を訪問した。

理研を訪問し、菖蒲を視察する麻生副総理・財務大臣。手前は大臣に説明するPEZYの齊藤社長 (出所:理研Webサイト)

戎崎計算宇宙物理研究室に設置された皐月を前に、戎崎主任研究員と宇宙ゴミの除去について話す麻生大臣 (出所:理研Webサイト)

アベノミクスのエンジンをふかすための大型補正予算が検討されている時期であり、この時期の財務大臣の視察は、PEZY/ExaScalerのスパコン開発に補正予算が付くということも可能性としては考えられる。